設計変更の追加費用を請求する前に、何を残すか?取適法の条文と2026年10月の運用基準改正から

取適法(旧下請法)の対象になる取引では、設計変更の追加費用は、受託側に責任がなければ発注側が負担する、というのが法の考え方です。第5条第2項第3号は責任のない受託側への不当な変更・やり直しを、第4号は協議に応じない一方的な代金の決定を禁じています。2026年10月1日の運用基準改正で、負担の対象は「費用・損失」になりました。請求の前に、変更指示の日時・指示者・変更点・済んでいた工程と、協議を求めた記録を残します。(2026年10月時点)
全体の流れと読める項目は読み取りの進め方のページにまとめています。
要点
- 取適法第5条第2項第3号は、受託側に責任がないのに内容を変えさせ、やり直させて利益を不当に害することを禁じています。
- 第5条第2項第4号は、受託側が代金の協議を求めたのに応じず、一方的に代金を決めることを禁じています。協議はメールなど形に残る方法で求めます。
- 2026年10月1日の運用基準改正で、発注側が負担すべきものは「費用」から「費用・損失」に書き改められました。
- 架空のフランジ20個の例では、穴あけ12個の時点の変更で増える工数は518分、材料の損失は9,600円です(計算値)。
- 変更指示1件ごとに日時・指示者・変更点・済んでいた工程の4つを、指示を受けた日のうちに残します。
目次
設計変更でやり直しになった費用は、客先に請求できるのですか?
取適法の対象になる取引では、受託側に責任がない変更なら、かかった費用と損失は発注側が負担する、というのが取適法の考え方です。取適法は下請法を改正した法律で、2026年1月1日に施行されました。第5条第2項第3号が禁じるのは、受託側に責任がないのに内容を変えさせ、やり直させて、利益を不当に害することです。
関わる条文は4つです。図面よみでは、義務を負うのは発注側で、受託側は同じ中身を手元に残す、と整理しています。
| 条文 | 中身 | 受託側が手元に残すもの |
|---|---|---|
| 第4条 | 発注したら直ちに、給付の内容・代金・支払期日などを書面か電磁的方法で示す | 最初の注文書と図面の版数 |
| 第5条第2項第3号 | 責任のない受託側に内容を変えさせ、やり直させて利益を不当に害することの禁止 | 変更指示の記録と、済んでいた工程 |
| 第5条第2項第4号 | 費用の変動などで受託側が代金の協議を求めたのに、協議に応じず、または必要な説明や情報を出さずに、一方的に代金を決めることの禁止 | 協議を求めたメールと、その返事 |
| 第7条 | 給付・受領・代金などを記録した書類を作って保存する | 自社側の変更の記録表 |
追加の費用を求める場面で中心になるのは、第3号と第4号の組み合わせです。第3号は変更そのものの扱い、第4号は代金の話し合いの扱いを定めています。客先が協議に応じないまま元の代金で済ませると、第4号の「一方的に代金の額を決定すること」に当たりうるので、協議を求めた記録が要ります。
どんな場合なら「受託側に責任がない」と言えるのですか?
客先の都合で図面が変わったなら、受託側の責任ではありません。図面のとおりに作っていたのに客先が穴の位置を変えたなら、済んでいた作業の費用は発注側の負担です。運用基準(第4の8(2))は、作業が無駄になったときや、当初にない作業が要ったときを挙げています。その費用・損失を負担しないことは「利益を不当に害」することになります。
取適法が当てはまらないのは、どんな場合ですか?
次の場合は、ここまでの話がそのまま当てはまりません。請求の前に、自社の取引がどれに当たるかを確かめます。
- 受託側が中小受託事業者に当たらない場合。取適法の対象かどうかは、双方の資本金・従業員数で決まります。自社の規模が基準を超えていれば、取適法ではなく独占禁止法の優越的地位の濫用などで考えることになります。
- 取引が製造委託等に当たらない場合。自社の製品を売るだけの取引など、委託でない取引は対象外です。
- 受託側の要請で変えた場合。運用基準(第4の8(3))は、受託側の要請で内容を変えた場合を、発注側が費用を負担しなくてよい場合に挙げています。
- 受領前の確認で、委託内容と違うと合理的に判断された場合。同じく第4の8(3)が挙げるもので、作ったものが当初の図面どおりでなかったときです。
- 数量を増やした場合。取適法Q&A(Q125)は、発注後に数量を増やすのは変更ではなく、増えた分の新しい発注だとしています。増えた分は、改めて第4条の明示を受けます。
当てはまるかどうかが分からないときは、公正取引委員会か中小企業庁の相談窓口に確かめます。
2026年10月1日の運用基準改正で、何が変わったのですか?
発注側の負担の対象が「費用」から「費用・損失」に書き改められました。公正取引委員会は2026年10月1日に運用基準を改正し、新旧対照表を公表しました。知財取引指針(2026年6月24日)を踏まえた改正です。
第4の8(2)の文言は、改正前が「その費用を負担しないこと」でした。改正後は「その費用や中小受託事業者に生じた損失」です。
受託加工では、加工の工数に加えて、使えなくなった材料も話に出しやすくなったと私は読んでいます。個々の取引で何が損失に当たるかは、公正取引委員会の相談窓口か弁護士に確かめます。
改正では、責任がない場合の例に「オ」も足されました。長く予定を空けさせておきながら、発注側の都合で直前に取り消し、別の仕事を入れられなくした場合です。
変更の指示1件ごとに、何を残せばよいですか?
指示の日時・指示者・変更点・その時点で済んでいた工程の4つを、指示を受けた日のうちに残します。第7条で記録を保存する義務を負うのは発注側です。それでも、話し合いで頼れるのは自社の手元の記録です。取適法Q&A(Q137)も、代金の協議は書面や電子メールなど形に残る方法で求め、記録を保存しておくことが望ましいとしています。協議を求めた日と返事が残っていれば、第5条第2項第4号の「協議に応じず、一方的に代金を決めた」かどうかを、あとから示せます。
残す項目を、架空の例で並べました。上の5行が欠けると、無駄になった作業の範囲を後から示せません。
| 残す項目 | 記入の例(架空) | 何のために残すか |
|---|---|---|
| 指示の日時 | 10月7日 14:20 | 済んでいた工程の区切り |
| 指示者と手段 | 客先の設計担当、電話のあと同日にメール | 客先の都合の変更だと示す |
| 図番と版数 | FL-1023 B版からC版 | 当初の委託内容を特定する |
| 変更点 | 穴の位置を30mmから35mmへ | 作業のどこが無駄になったか |
| 済んでいた工程 | 切断・旋盤20個、穴あけ12個 | 無駄になった作業の範囲 |
| 増えた工数と材料 | 518分、材料12個 | 費用・損失の額の根拠 |
| 協議を求めた日と返事 | 10月8日にメールで送付 | 協議を求めたことを示す |
発注側も、給付の内容を変えたら7条の記録に残す必要があります(Q&A Q70)。突き合わせやすいよう、版数と日時の書き方をそろえておきます。
変更前に済んでいた工程の工数は、どう数えますか?
工程ごとに「済んだ個数×1個の時間」を足し、作り直しの段取りと変更の対応を加えます。図面よみが架空のフランジ20個で計算しました。穴あけ12個の時点で穴の位置が変わると、増える工数は518分(約8.6時間)、材料の損失は9,600円です(計算値)。
前提はすべて架空です。1個あたり切断6分・旋盤18分・穴あけ10分、材料費は1個800円と置きました。穴あけ済みの12個は使えません。残る8個は、C版の位置に穴をあければ使えます。
| 内訳 | 式 | 工数(分) |
|---|---|---|
| 無駄になった加工 | 12個×(6+18+10分) | 408 |
| 作り直しの段取り | 切断10分+旋盤30分 | 40 |
| 変更の対応 | 図面確認とプログラム修正30分+段取りのやり直し40分 | 70 |
| 合計 | 518 |
PER_PIECE = {'切断': 6, '旋盤': 18, '穴あけ': 10} # 1個の分(架空)
wasted = drilled * sum(PER_PIECE.values()) # 無駄になった加工
resetup = 10 + 30 # 作り直しの段取り
change = 30 + 40 # 変更の対応
minutes = wasted + resetup + change # 12個なら518分
穴あけ済みが1個増えるごとに、無駄になる加工は34分ずつ増えます。20個すべて済んだあとなら790分です。単価を仮に1時間5,000円と置くと、518分と材料で52,767円です。単価は相場の値ではないので、自社の数字に置き換えてください。
変更の指示から請求まで、どの順番で進めますか?
まず加工を止めます。進み具合を数え、見積を出して協議を求め、合意してから請求します。図面よみでは、6つの段階ごとに残す物を決めています。
- 指示を受けたら、日時・指示者・変更点をその日のうちにメールで客先に確かめる
- 加工を止め、工程ごとに済んだ個数を数える
- 変更後の図面を受け取り、図番と版数を記録する
- 増えた工数と材料を、内訳と式つきで見積もる
- 見積をメールで送り、代金の協議を求める
- 合意した額と日付を残し、注文書の変更を受けてから請求する
専門家に聞く場面は3つです。客先が取適法の対象か分からないときは、公正取引委員会か中小企業庁の相談窓口へ聞きます。客先が協議に応じないときや支払いを拒むときは、第5条第2項第4号に当たるかを含めて、弁護士に相談します。変更に合わせて図面データの提供まで求められたときは、知財取引指針も関わるので、これも弁護士に確かめます。
このサイトで相談するには?
変更の指示や版数を、受けたその日に記録できる仕組みも作れます。図面よみの無料で相談するからどうぞ。何をどう頼むか決まっていなくても大丈夫で、準備は要りません。図面をお見せいただかなくても、御社のやり方に合わせて進め方を一緒に考えます。
よくある質問
- 口頭で受けた設計変更でも、費用を請求できますか?
- 口頭でも、受託側に責任のない変更なら考え方は同じです。ただ後から示せないので、電話のあと同じ日にメールで日時と変更点を客先に確かめておきます。
- 数量を増やす指示も、設計変更として扱いますか?
- いいえ。取適法Q&A(Q125)は、発注後の数量の増加を、増えた分の新しい発注としています。増えた分は、改めて発注内容を書面などで受け取ります。
- 客先が取適法の対象か分からないときは、どこに聞けばよいですか?
- 公正取引委員会か中小企業庁の相談窓口です。対象かどうかは、双方の資本金・従業員数と取引の内容で決まるので、取引ごとに確かめます。
- 改正後の運用基準で、何が新しく書かれましたか?
- 負担の対象が「費用・損失」になり、予定を確保させたのに直前で取り消す場合も、受託側に責任がない例に加わりました(第4の8(3)オ)。
出典
- 製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和31年法律第120号、取適法)第4条・第5条第2項第3号・同項第4号・第7条(e-Gov 法令検索、2026年1月1日施行の現行条文)(2026年10月16日確認)
- 公正取引委員会「取適法の運用基準 及び フリーランス・事業者間取引適正化等法の考え方 の改正について」(2026年10月1日)(2026年10月16日確認)
- 公正取引委員会「取適法の運用基準 新旧対照表」別紙1-1(2026年10月1日。第4の8 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し)(2026年10月16日確認)
- 公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」Q60・Q70・Q125・Q137(2026年10月16日確認)
- 図面よみの計算(2026年10月16日)。架空のフランジ20個・3工程で、変更の時点の進み具合から増える工数と材料を数える(計算のコードは相談のときにお見せします)(2026年10月16日確認)


