図面の無償提供の要求はよくある?公取委の調査6,973社を、分母と事例から読む

公正取引委員会の2026年3月の調査では、回答した6,973社のうち知財やノウハウを持つ3,824社の15.8%が、納得できない取引条件を受け入れた経験がありました。設計図面データの無償提供を要求された事例も報告されています。ただし図面だけの割合や業種別の割合は、報告書にありません。図面よみが、数字を分母ごとに並べ直して読みます(2026年10月時点)。
全体の流れと読める項目は読み取りの進め方のページにまとめています。
要点
- 公取委の2026年3月の調査で、知財やノウハウを持つ3,824社の15.8%(603社)が納得できない取引条件を受け入れていました。
- 同じ603社を回答者全体の6,973社で割ると8.6%で、分母によって見え方が変わります。
- 設計図面データの無償提供は事例13〜16の4件が報告され、見積の段階から納品後まで起きていました。
- 受け入れた理由の約53%は「断ると今後の取引に影響がある」で、図面だけの割合や業種別の割合は報告書にありません。
目次
図面の無償提供を求められるのは、よくあることですか?
公正取引委員会の調査では、知財やノウハウを持つ3,824社の15.8%(603社)が、納得できない取引条件を受け入れていました。設計図面データの無償提供を求められた事例も、ヒアリングで4件報告されています。「よくある」と言い切れる数字ではありませんが、珍しい話でもありません。
調査は2025年9月に91業種の40,000社へアンケートを送り、6,973社(回答率17.4%)が答えたものです。送付先の92.5%は中小企業で、回答者の70.8%は製造業と情報通信業でした。発表元は公正取引委員会で、製品を売る会社の調査ではありません。図面よみが、報告書の本文から主な数字を拾って表にしました。
| 数字 | 社数 | 分母 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 知財・ノウハウ・データを保有 | 3,824社 | 回答6,973社 | 54.8% |
| チェックする担当者・専門家のいずれか又は両方がいない | 1,913社 | 保有3,824社 | 50.0% |
| 納得できない取引条件を受け入れた | 603社 | 保有3,824社 | 15.8% |
| ノウハウかデータの開示等を強要された | 411社 | 保有3,824社 | 約11% |
| 無償譲渡・無償ライセンス等を強要された | 251社 | 保有3,824社 | 約7% |
「15.8%」と「8.6%」は、どちらで読めばよいですか?
自社が図面やノウハウを持つ会社なら、15.8%で読みます。この割合の分母は、知財・ノウハウ・データを持つと答えた3,824社だからです。同じ603社を回答者全体の6,973社で割ると、8.6%になります。
報告書の「ポイント」には、最初の2つの割合は回答者6,973社、残りの2つは保有3,824社が分母だと注記があります。見出しだけを読むと、54.8%と50.0%と15.8%が同じ土台の数字に見えます。記事や社内資料で使うときは、割合の横に分母の社数を書くと誤解が減ります。
報告書にない数字もあります。本文を探した範囲では、図面に限った割合と、受け入れた経験を業種別に分けた割合は載っていませんでした。「加工会社の○%が図面を求められた」という数字は、この調査からは作れません。また回答率は17.4%で、困った経験のある会社ほど答えやすかった可能性も残ります。
設計図面の無償提供は、どんな場面で求められていますか?
報告書は、見積の段階から納品後まで、取引のいろいろな段階で設計図面データを求められた事例を載せています。事例13〜16は「一方的な開示要請(設計図面等)」の類型です。2026年6月の知財取引指針にも、事例1-7〜1-10として同じ内容が載りました。
| 事例(報告書) | 業種 | 段階 | 求められたもの |
|---|---|---|---|
| 事例13(指針 1-7) | プラスチック製品製造業 | 見積の依頼のたび | 勾配・間隔などを書いた設計図面データ |
| 事例14(指針 1-8) | プラスチック製品製造業 | 受注前 | 詳細図面づくりのノウハウ。後に他社へ転注 |
| 事例15(指針 1-9) | 生産用機械の製造業 | 金型の発注後 | 発注書にない金型の設計図面データ |
| 事例16(指針 1-10) | 印刷・同関連業 | 納品後 | 安全性調査の名目で設計図面データなど |
| 事例43 | 業務用機械の製造業 | 図面そのものの取引 | 図面1枚数千円で、1枚に1週間かかることもある |
事例13は、見積を頼まれるたびに図面データの無償提供を求められ、応じた結果、何度も修正作業が生じたという内容です。事例43と事例45は、図面そのものに見合った対価を請求できないという声で、報告書では対価の決め方の類型に入っています。
断れずに受け入れてしまうのは、なぜですか?
いちばん多い理由は「断ると今後の取引に影響があると判断したから」で、受け入れた603社の約53%(約320社)が挙げました。次いで「有力な取引先で、売上や信用につながると判断したから」が約34%でした。
「条件が当初は明確でなく、後から求められた」も約22%あります。見積の時点で図面の扱いが決まっていないと、後から断りにくくなる流れが読み取れます。
社内の体制も関わります。保有3,824社の50.0%(1,913社)では、知財の扱いを見る社内の担当者か外部の専門家が欠けていました。ノウハウやデータの開示を強要された411社では、約23%が流用の被害を答えています。見積や商談の段階で、NDA(秘密保持契約)を結ばずに資料を出したケースです。
見積の段階で図面データを求められたら、何をしておけばよいですか?
まず、自社の図面を「出せるもの」と「出さないもの」に分けておきます。知財取引指針は、自社の情報を3つに区分しておくことを勧めています。「NDAなしで開示できる」「NDA締結後に開示できる」「どんな状況でも開示すべきでない」の3つです。
指針は、取引の目的物でない設計図面や加工データの提供を、意に沿わない形で強制しないことを「あるべき姿」としています。取引条件は口頭の慣習にせず、書面で明示して記録に残すことが望ましいとも書いています。実践例には、寸法情報を消してから図面を渡す会社(実践例1-9)があります。開示した情報にタイムスタンプを付ける会社(実践例1-11)も紹介されています。
私が図面の台帳を作るときは、図番ごとに開示の区分と、いつ誰に渡したかを記録する欄を入れます。取適法や独占禁止法に当たるかは、取引の内容と会社の規模で変わります。当てはまるかは、公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口か弁護士に確かめてください。設計変更の費用の記録については、設計変更の追加費用を請求する前に残すもので説明しています。
公正取引委員会は2026年10月9日、50,000名の事業者へ新しいウェブアンケートを依頼しました(回答期限は11月5日)。結果が出たら、今回の数字と並べて読み直します。
このサイトで相談するには?
図面よみでは、図面の台帳に開示の区分や渡した記録を持たせる仕組みも作れます。何をどう頼むか決まっていなくても大丈夫で、準備は要りません。御社のやり方に合わせて、進め方を一緒に考えます。無料で相談するからどうぞ。
よくある質問
- 見積のときに図面データを求められたら、断ってよいですか?
- 断るかどうかは取引ごとの判断です。知財取引指針は、取引の目的物でない設計図面データの提供を、意に沿わない形で強制しないことを「あるべき姿」としています。
- 自社が取適法の対象になるか、どこで確かめられますか?
- 公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口か、弁護士に確かめます。資本金・従業員の基準と取引の内容で決まり、記事だけでは判断できません。
- 図面の無償提供を求められた会社は、何%ですか?
- 図面だけの割合は報告書にありません。分かるのは、保有3,824社の約11%(411社)がノウハウかデータの開示等を強要された経験がある、という数字までです。
- 次の調査はありますか?
- あります。公正取引委員会は2026年10月9日に50,000名の事業者へウェブアンケートを依頼し、回答期限は11月5日です。結果は未公表です(2026年10月時点)。
出典
- 公正取引委員会「知的財産権・ノウハウ・データを対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書」本体(2026年3月11日公表、アンケート2025年9月、回答6,973社)(2026年10月16日確認)
- 公正取引委員会 同報告書のポイント(2026年3月11日)(2026年10月16日確認)
- 公正取引委員会 報道発表「知的財産権・ノウハウ・データを対象とした優越的地位の濫用行為等に関する実態調査報告書について」(2026年3月11日)(2026年10月16日確認)
- 公正取引委員会・中小企業庁・特許庁「知的財産権・ノウハウ・データの適切な取引のための優越的地位の濫用等に関する指針」(2026年6月24日)(2026年10月16日確認)
- 公正取引委員会「知財取引指針等に係る調査の開始について」(2026年10月9日、50,000名にウェブアンケート)(2026年10月16日確認)


