「2025年の崖」の12兆円はどう計算されたのですか?経産省とIPAの数字を読み直す
「2025年の崖」の12兆円は、古いシステムが残った場合の経済損失として、経済産業省が2018年9月のレポートで示した推計の上限です。システム障害の損失約4兆円(4.96兆円×79.6%)を、古いシステムの割合が3倍になる前提で3倍しました。実際に測った値ではありません。Access引越しで再計算すると11.8兆円でした。(2026年10月時点)
全体の流れと費用はAccess・オフコンの引越しのページにまとめています。
要点
- 12兆円は、2014年の障害の損失4.96兆円×79.6%×3で出した推計で、実測ではありません。
- 掛け算をやり直すと11.84兆円で、経産省の「約12兆円」と合います(計算値)。
- 原因の範囲や倍率の置き方を1つ変えるだけで、7.5兆円から14.6兆円まで動きます(計算値)。
- IPAの2023年度調査(n=1,002)では、レガシーが「ない」か「一部」の企業は58.0%でした。
- 従業員100人以下(n=318)では「特に課題はない」が35.5%で、最も多い回答でした。
目次
「2025年の崖」の12兆円は、どう計算されたのですか?
2014年のシステム障害の損失4.96兆円に79.6%を掛けて約4兆円とし、それを3倍した推計です。79.6%は、古いシステムが原因になりうる障害の割合です。経済産業省の研究会が2018年9月7日に公表したレポートは、本文27ページの注にこの算出根拠を書いています。12兆円は「2025年以降、最大12兆円/年」とされた上限で、実際の損失を測った値ではありません。
経産省の注の数字を、段ごとに並べると次のとおりです。どの段も別々の調査から持ってきた数字で、掛け合わせて初めて12兆円になります。
| 段 | 数字 | 元の調査 | 何の数字か |
|---|---|---|---|
| ① | 4.96兆円 | EMCジャパンの調査を基にしたIPAのまとめ | 2014年1年間、データ損失やシステムダウンで生じた国内全体の損失 |
| ② | ×79.6% | 日経コンピュータ 2017年8月3日号 | 2010年代のシステムダウンの原因のうち、古いシステムに起因しうる4つの合計 |
| ③ | =約4兆円 | ①×② | 古いシステムに起因する障害の損失(「現段階で最大」) |
| ④ | ×3 | JUAS「企業IT動向調査報告書2016」 | 基幹系が21年以上動いている企業が20%から60%になる見込み |
| ⑤ | =約12兆円 | ③×④ | 2025年以降の最大の損失(年あたり) |
12兆円は国全体の推計で、自社の損失の見込みではありません。Access・オフコンの引越しを考える会社も、この点を先に押さえると読み違えません。
4.96兆円・79.6%・3倍は、それぞれ何を表していますか?
4.96兆円は障害で生じた損失、79.6%は障害の原因の割合、3倍は古い基幹系を持つ企業の割合の伸びです。どれも古いシステムの維持費や保守費ではありません。解説記事の中には「維持管理の費用が約4兆円」と紹介するものもありますが、経産省の注の約4兆円は障害の損失です。
79.6%は、日経コンピュータが挙げた5つの原因のうち4つを足した値です。足したのはセキュリティ29.1%、ソフトの不具合23.1%、性能・容量不足7.7%、ハードの故障・不慮の事故19.7%です。人的ミス18.8%は外しました。
経産省は「仮に」この4つとすると書いており、選び方は前提の1つです。5つを全部足すと98.4%になります。
3倍は、JUASの2016年の報告書の数字から置いた倍率です。基幹系が21年以上動いている企業は20%、11〜20年の企業は40%でした。10年後の2025年までそのまま使い続ければ、21年以上は60%になります。
60%を20%で割って3倍とし、障害のリスクも同じだけ増えるとみなしました。10年のあいだに入れ替えた会社はいない、という置き方です。
前提を変えると、12兆円はいくらになりますか?
前提を1つ変えるだけで、7.5兆円から14.6兆円まで動きます。経産省の前提どおりに掛け算をやり直すと11.84兆円で、「約12兆円」と合いました。
計算はPythonで書きました。要点は次の数行です。
CAUSES = {'セキュリティ': 29.1, 'ソフトの不具合': 23.1, '性能・容量不足': 7.7,
'人的ミス': 18.8, 'ハードの故障・事故': 19.7}
def estimate(causes, share_2025=60):
rate = sum(CAUSES[c] for c in causes) / 100 # 古いシステムに起因する割合
now = 4.96 * rate # 2014年の損失 × 割合(兆円)
return now * share_2025 / 20 # 21年以上の企業 20% → 2025年の割合
スクリプトは scripts/figs/cliff_2025.py です。「11〜20年の企業の半分が10年のうちに入れ替える」と置くと、2025年の21年以上は40%です。倍率は2倍になり、7.9兆円です。
この置き方は私が仮に決めたもので、根拠のある見込みではありません。推計の大きさは、どの原因を数えるかと、何年で入れ替えるかの置き方で決まります。
2023年度の調査では、古いシステムはどれくらい残っていますか?
IPAの2023年度調査(n=1,002)では、古いシステムが「ない」か「一部に残る」と答えた企業は58.0%でした。2022年度(n=542)の40.4%から増えています。調査は2024年2月9日から5月2日に、日本企業の経営層またはICT部門に聞いたもので、報告書は2024年6月27日に公表されました。
製造業(n=417)では、「ない」23.0%と「一部に残る」34.8%で、合わせて57.8%でした。「半分程度」と「ほとんど」の合計は32.3%です。製造業の区分には建設業なども入っています。業種別のnは78から417まで差があり、情報通信業の値は回答78社の割合です。
2022年度と2023年度は回答した会社が同じではないため、同じ会社の刷新が進んだとは言い切れません。経産省の「21年以上が60%」とも、聞いている中身が違うので比べられません。
従業員100人以下の会社は、刷新の何に困っているのですか?
IPAの2023年度調査では、従業員100人以下の企業(n=318)の答えは「特に課題はない」35.5%が最多でした。次が「他の案件に手一杯で要員を割けない」31.1%です。1,001人以上(n=265)では「手一杯」が47.5%で、「特に課題はない」は8.3%でした。
IPAの本文は、100人以下では操作性へのこだわり・ブラックボックス化・肥大化が「いずれも10%未満」と書いています。グラフのラベルでは、操作性へのこだわりが10.1%、ほかの2つが8.5%でした。
「特に課題はない」が多い理由は、調査からは分かりません。古いシステムがない会社も、中身を誰も確かめていない会社も、同じ答えになりえます。回答者が経営層かICT部門かでも、見えている範囲は変わります。
自社の古いシステムの危うさは、どう確かめればよいですか?
国全体の12兆円ではなく、自社の止まった回数と時間、サポートの終了日、中身を説明できる人の3つを確かめます。経産省の推計も、元は障害の損失と原因の割合と年数の掛け算でした。同じ形で自社の数字を置けば、自社の見込みになります。
- 直近1年で止まった回数と、止まっていた時間を書き出す
- 使っている製品の版と、サポートの終了日を並べる
- 画面・帳票・処理の中身を説明できる人がいるかを確かめる
Access 2021のサポートは2026年10月13日に終わりました(Microsoftの区分ではModernポリシーの「提供終了」)。版ごとの終了日はAccess 2021のサポート終了の記事にまとめています。中身の数え方は作った人がいないAccessの中身を数える手順で扱います。Access引越しで数字を読み直すと、12兆円より先に見るべきなのは自社の記録だと分かります。
このサイトで相談するには?
古いシステムの危うさを自社の数字で確かめたいときは、Access引越しへ無料で相談するからお送りください。何をどう頼むか決まっていなくても大丈夫です。御社のやり方に合わせて、進め方を一緒に考えます。準備は要りません。
よくある質問
- 12兆円は、実際に失われた金額ですか?
- いいえ。2014年の障害の損失に割合と倍率を掛けた、2025年以降の推計の上限です。2025年に何円失われたかを測った数字ではありません。
- 12兆円は、古いシステムの維持費のことですか?
- いいえ。元の4.96兆円は、データ損失やシステムダウンなどの障害で2014年に生じた損失です。維持費や保守費は計算に入っていません。
- IPAの調査の58.0%と、経産省の60%は比べられますか?
- 比べられません。経産省の60%は基幹系が21年以上動いている企業の見込み、IPAの58.0%はレガシーが「ない」か「一部」と答えた企業の割合です。
- 自社の古いシステムの危うさは、どう測ればよいですか?
- 1年に何回止まり、何時間止まったかを記録し、使っている製品のサポートの終了日を並べます。Accessなら版ごとの終了日を確かめます。
この数字の出し方
この記事の自前の数字は、次の見本・条件・回数で出しました。主宰が確かめ、更新日は2026年10月17日です。スクリプトの名前から、同じ手順を自分のファイルで再現できます。
- Access引越しの計算(2026年10月16日、Python 3.14。経済産業省の報告書の4.96兆円・79.6%・3倍を掛け直し、前提を1つずつ変えて7.5兆〜14.6兆円を出した)。scripts/figs/cliff_2025.py
出典
- 経済産業省 デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会のレポート「ITシステム『2025年の崖』の克服と(以下略)」(2018年9月7日)本文 p.26〜27(経済損失の算出根拠の注)。経産省のサイトは取得時 403 のため Internet Archive の写しで確認(2026年10月16日確認)
- 情報処理推進機構(IPA)の企業の動向調査 2024年版(2024年6月27日、2023年度調査 2024年2月9日〜5月2日、日本企業の経営層またはICT部門)図表2-15・2-16・2-18、5.1 調査概要(2026年10月16日確認)
- Microsoft Learn「Ending Support in 2026」(Access 2021 の提供終了 2026年10月13日)(2026年10月16日確認)