OCRを使わずに帳票を読むAI「Donut」は、FAX受注に使えるのか論文の数字から考える

画像から直接、注文書の項目を取り出すAI「Donut」は、OCRを使う方式より速く正確でしたが、日本語の名刺ではいちばん良い成績でもF1 57.8%でした。FAX受注にそのまま使えば、多くの項目で人の確認が要る水準です。論文(ECCV 2022)の表の数字を原文で確かめ、FAX受注の仕組みに取り入れられる考え方と、取り入れない方がよい所を整理します。(2026年10月時点)
全体の流れと費用はFAX受注の自動化のページにまとめています。
この記事の要点
- Donut は、OCRを使わずに帳票の画像から項目を直接取り出すAIで、ECCV 2022 で発表されました。
- 英字のレシート(CORD)では、F1が84.1%で、OCRを使う LayoutLMv2 の78.9%を上回りました。
- 日本語の名刺では、いちばん良い Donut でもF1は57.8%で、そのまま自動で登録できる水準ではありません。
- FAX受注に取り入れたいのは、学習データが少なくても強いことと、OCRの読み違いを持ち込まない設計の考え方です。
目次
Donut は、どんなAIですか?
Donut は、帳票の画像を入れると、OCR(画像の文字を文字データにする処理)を通さずに、項目と値を直接文章として書き出すAIです。2021年に論文が公開され、2022年に画像認識の国際会議 ECCV で発表されました。著者は、韓国の NAVER CLOVA などの研究者です。
これまでの多くの仕組みは、まずOCRで文字を読み、次に文字の並びから「品名」「数量」といった項目を見分ける、という2段構えでした。Donut はこの2段を1つのモデルにまとめています。画像を読む部分(Swin Transformer)と、文章を書き出す部分(BART の最初の4層)をつなげ、画像から「品名は〜、数量は〜」という形の文字列を直接出します。
論文が問題にしているのは、OCRに頼ることの3つの弱点です。OCRを動かす費用がかかること、言語や帳票の種類が変わると作り直しが要ること、そしてOCRの読み違いが後ろの段に伝わることです。FAXの注文書で言えば、3つ目がいちばん身近です。かすれた「1」をOCRが「7」と読めば、どれほど賢い項目の取り出しでも、数量は7として登録されます。
論文の数字では、どれくらい読めたのですか?
項目の取り出しの正しさ(F1)は、英字のレシートの公開データ CORD で84.1%でした。OCRを使う方式でいちばん良かった LayoutLMv2 は78.9%で、Donut が5.2ポイント上回っています。1枚あたりの処理時間も、Donut の1.2秒に対して LayoutLMv2 は1.7秒でした。
| 帳票(論文の表2) | BERT | LayoutLMv2 | Donut |
|---|---|---|---|
| CORD(英字のレシート)F1 | 73.0 | 78.9 | 84.1 |
| 中国の乗車券 F1 | 74.3 | 87.2 | 94.1 |
| 日本語の名刺 F1 | 40.8 | 52.2 | 57.8 |
| 韓国語のレシート F1 | 70.3 | 72.9 | 78.6 |
| CORD 1枚の処理時間(秒) | 1.6 | 1.7 | 1.2 |
この表で私がいちばん注目したのは、日本語の名刺の行です。名刺は、会社名・氏名・住所など11項目で、学習に2万枚を使っています。それでもF1は57.8%でした。項目の形が決まった乗車券の94.1%と比べると、形が自由で、文字の大きさや並びがばらばらな帳票ほど、どの方式でも難しくなることが分かります。
FAXの注文書は、名刺よりさらに条件が悪い所があります。解像度が低く、手書きが混ざり、取引先ごとに形が違います。論文の数字はそのまま当てはまりませんが、「画像から直接読めば全部自動になる」とは期待しない方がよい、ということは言えます。
FAX受注の仕組みに、取り入れられる考え方は?
取り入れたいのは2つです。学習データが少なくても強いことと、読み違いを後ろに持ち込まない設計です。
1つ目について、論文では CORD の学習データを減らして試しています。Donut は全体の10%、わずか80枚でも、全データで学習した LayoutLMv2 の正確さ(TED に基づく正答率)を上回りました。中小企業の受注では、取引先ごとの注文書を何百枚も集めるのは難しいので、少ない見本で読めることは大きな利点です。
2つ目は、論文の問題意識そのものです。私が作る仕組みでも、AIが読んだ値をそのまま信じず、品番の対応表、前回の注文、数量の常識的な範囲と照らし合わせ、合わない項目だけを「要確認」にしています。OCRの読み違いが後ろに伝わる、という弱点への答えを、モデルの作りではなく照合で用意している形です。くわしくはFAX注文書をAIで受注データにする仕組みに書いています。
取り入れない方がよい所は?
画像の解像度の制約と、学習の手間です。論文自身が、大きな画像の中の小さな文字を読み落とすことがある、と書いています。Donut は画像を決まった大きさに縮めて読むためで、論文では入力を大きくすると正確になる一方、計算が重くなる、とも述べています。
FAXの注文書では、品番の「S-0412」のような小さな印字や、欄外の手書きの追記が大事な情報になることがあります。FAXの解像度の実験で見たとおり、標準の解像度ではハイフンが消えることもあります。小さな文字の読み落としは、受注では誤出荷につながります。
もう1つは、Donut を御社の注文書に合わせて学習し直すには、正解を付けた見本と、学習を回す計算機が要ることです。論文の事前学習は、A100 という高性能のGPUを64枚使って20万ステップ回しています。中小企業の受注のために一から学習し直すより、すでに学習済みの汎用のAIに読ませ、照合で確かめる方が、費用と期間の両面で現実的だと私は考えています。
この論文から、何を確かめればよいですか?
読み取りのAIを選ぶときは、正答率の数字より先に、「どんな帳票で測った数字か」と「間違えたときに何が起きるか」を確かめます。
論文の84.1%は、英字のレシートで測った値です。日本語の名刺では57.8%まで下がりました。導入を検討するAIの数字を見るときも、自社に近い帳票で測ったものかどうかを聞いてください。そして、どの方式でも間違いは残ります。間違えた項目を人が見つけられる仕組みがあるかどうかが、受注では正答率と同じくらい大事です。
このサイトで相談するには?
お手元のFAXの注文書が、AIでどこまで読めそうかは、無料相談で一緒に確かめられます。注文書をお見せいただかなくても、枚数と書き方をうかがえば目安をお答えします。手書きの読み取りの考え方はAI-OCRは手書きの注文書をどこまで読める?にまとめています。
よくある質問
- Donut は日本語の注文書も読めますか?
- 論文では日本語の合成データで事前に学習しており、日本語の名刺でも評価されています。ただしF1は57.8%で、そのまま自動で登録できる水準ではありません。
- OCRを使わない方式のほうが、いつも良いのですか?
- 論文の比べ方では速く正確でしたが、小さな文字を読み落とす弱点も書かれています。注文書では、読み取った数字を照合する仕組みと組み合わせるのが現実的です。
- このサイトの仕組みは Donut を使っていますか?
- 使っていません。いまは汎用のAIに画像を読ませ、品番の対応表と照合のルールで確かめる形です。Donut の論文は、その設計を考える材料として読んでいます。
出典
- Kim, G. ほか「OCR-free Document Understanding Transformer」ECCV 2022(arXiv:2111.15664 v5)(2026年10月15日確認)
- CORD(Consolidated Receipt Dataset)(2026年10月15日確認)


