原材料が上がったとき、取適法の協議で見積の根拠を出すには運用基準の読み方と、要因ごとに分けた値上げ幅の計算

取適法の第5条第2項第4号は、発注する側が、コスト上昇を理由にした価格の協議に応じず、必要な説明もしないまま一方的に代金を決めることを禁じています(2026年1月1日施行)。受託側が協議を求めるときは、見積の内訳を要因ごとに分けた根拠が役に立ちます。架空の部品では、材料が15%上がっても単価は2.8%しか上がらず、人と設備の分を足して6.5%でした(2026年10月時点)。
全体の流れと費用は製造業の見積の自動化のページにまとめています。
要点
- 取適法 第5条第2項第4号は、協議に応じない一方的な代金の決定を、発注する側(委託事業者)に禁じています。義務を負うのは発注側です。
- 運用基準は、協議の求めを無視したり、繰り返し先延ばしにしたりすることも「協議に応じない」に当たるとしています。
- 運用基準は、代金を据え置くことも「決定」に含めます。理由や根拠資料を示さずに据え置いた場合は、違反行為の例に挙がっています。
- 架空の部品(1個1,722円)では、材料が15%上がっても単価は2.8%の上昇で、人と設備のアワーレートの上昇を足して6.5%でした。
- 根拠は、見積の日と協議を求める日の単価表を並べ、上がった要因ごとに金額を分けて示します。
目次
取適法の協議に応じない一方的な代金決定とは、どんな行為ですか?
発注する側が、協議を求められたのに応じないか、必要な説明をしないまま、一方的に代金を決める行為です。取適法の第5条第2項第4号が禁じています。
条文は、費用の変動などが生じ、受託側が協議を求めたのに、発注側が次のどちらかをして一方的に代金を決めることとしています。協議に応じないこと、または、必要な説明や情報の提供をしないことです。
義務を負うのは、発注する側の委託事業者です。取適法は2026年1月1日に施行され、資本金または従業員数の基準に当たる取引が対象です。受託側の会社にとっては、自社が協議を求めるときに何を出せばよいか、という話になります。
公正取引委員会の運用基準(第4の9)は、「費用の変動その他の事情」に、労務費、原材料価格、エネルギーコストの高騰のほか、納期の短縮、納入頻度の増加、発注数量の減少などを含めています。値上がりだけが理由ではありません。
「協議に応じない」とは、どこまでを指しますか?
運用基準は、協議の求めを明示的に拒む場合を含めます。さらに、協議の求めを無視する場合や、実施を繰り返し先延ばしにして協議を困難にさせる場合も、協議に応じないとしています。
「決定」にも幅があります。運用基準は、代金を引き上げ、または引き下げることのほか、据え置くことも含むとしています。違反行為の例には、受託側が合理的な理由を示して引上げを求めたのに、具体的な理由の説明や根拠資料の提供をせず、従前の代金を提示した場合が挙がっています。
一方、発注側が応じなくても問題にならない場合も、運用基準は書いています。次の3つです。協議と関連しない事項を求められた場合。営業秘密の開示を求められた場合。説明を尽くしたのに同じ質問が繰り返される場合。
協議を求めるとき、どんな根拠を出せばよいですか?
見積の日と協議を求める日の単価表を並べ、上がった要因ごとに金額を分けて示すと、説明が通りやすくなります。運用基準の違反例は、根拠資料の提供がないことを問題にしています。根拠を内訳で出せば、その点は満たしやすくなります。
見積帳場が、架空の部品1個(0.35kg、加工14分、段取り90分、ロット10個)で計算しました。見積の日の単価は、材料費322円と、加工・段取りの1,400円を足して1,722円です。
| 協議の日までに上がったもの | 見積の日 | 協議の日 | 単価への寄与 |
|---|---|---|---|
| 材料(ステンレス、ロス15%) | 800円/kg | 920円/kg(+15%) | +48円(+2.8%) |
| 人のアワーレート | 2,713円/時 | 2,830円/時(+4.3%) | +45円(+2.6%) |
| 設備のアワーレート(電気代など) | 938円/時 | 985円/時(+5.0%) | +18円(+1.0%) |
| 合計 | 1,722円 | 1,833円 | +111円(+6.5%) |
材料が15%上がっても、単価は2.8%しか上がりません。この部品は、材料費が単価の約19%だからです。「材料が15%上がったから、単価も15%上げたい」とは書けません。人と設備の上昇を足して、はじめて6.5%になります。
材料費の割合が高い品物なら、寄与は大きくなります。割合ごとの利益の削られ方は見積書の有効期限とスライド条項の記事に計算があります。
数字はすべて架空です。計算はscripts/figs/torittekihou_basis.pyで再現できます。
price = 材料kg単価 * 重さ * (1 + ロス率) + (人 + 設備のアワーレート) * (加工分 + 段取り分 / ロット) / 60
寄与 = price(変えた後) - price(変える前) # 要因を1つずつ足して差を取る
協議の記録は、どう残しておけばよいですか?
運用基準は、協議を求める形を書面か口頭かで分けていません。協議を希望する意図が客観的に認められれば足ります。そのうえで、日付のある書面かメールで残しておくと、後で確かめられます。残す内容は、日付、根拠、求めた金額です。
残しておくものは、次の4つです。
- 見積の日の単価表と、見積書の内訳の控え
- 協議を求める日の単価表(上がった要因ごとの金額)
- 協議を求めた日付と、求めた引上げ額
- 発注側の回答と、説明を受けた内容
見積の内訳を控えとして残していなければ、1が出せません。見積帳場の画面は、見積を出すたびに内訳と単価表の日付を控えに残します。月1回の差異表と合わせると、協議の日の単価表を作る手間が減ります。差異表の見方は見積と実際の差の記事にあります。
この条文が当てはまらないのは、どんな場合ですか?
資本金または従業員数の基準に当たらない取引は、取適法の対象外です。製造・修理・情報成果物の作成・役務の提供・特定運送の委託以外の取引も当たりません。建設工事の請負は、建設業法の対象で、取適法とは別の話です。
また、この条文は、発注する側の義務です。受託側が協議を求めても、発注側が必ず値上げを認めなければならないわけではありません。説明を尽くしたうえで、据え置く結論になることもあります。
自社の取引が対象かは、公正取引委員会・中小企業庁の相談窓口に確認してください。
協議に出す根拠を、自社の見積から作るには?
今の見積の内訳と単価表を見ながら、協議に出せる根拠の作り方を、見積帳場の主宰が一緒に考えます(無料で相談する)。何をどう頼むか決まっていなくても大丈夫です。御社のやり方に合わせて、進め方を一緒に考えます。準備は要りません。
よくある質問
- 取適法の価格協議は、受託側から求められますか?
- 求められます。費用の変動などが生じたとき、受託側が代金の協議を求めたのに、発注側が応じない、または必要な説明をしないまま一方的に決めることが禁じられています。
- 協議を求めるのは、書面でないといけませんか?
- 運用基準は、書面か口頭かを問わず、協議を希望する意図が客観的に認められれば足りるとしています。ただ、後で確かめられるよう、日付のある書面かメールで残しておくと安全です。
- 発注側に、原価の資料をすべて見せる必要がありますか?
- 運用基準では、受託側が求めた事項が協議と関連しない場合や、営業秘密の開示を求めるものである場合は、発注側が応じなくても問題にならないとされています。見せる範囲は、値上げの根拠に必要な部分にとどめます。
- 発注側が代金を据え置いたら、違反ですか?
- 据え置くことも「決定」に含まれますが、理由や根拠資料の説明を尽くしたうえで協議した結果なら、直ちに違反とは限りません。個別の判断は公正取引委員会などの相談窓口へ確認してください。
この数字はどう出したか
このページの実験と計算の数字は、実際のお客さまの取引ではなく、架空のデータや架空の入力例から主宰が出したものです。計算はPythonのコード(scripts/figsの再現コードと、画面の計算機と同じ式のsrc/lib/calc.ts)で組み、同じ入力なら同じ数字が出ます。
更新 ・ 事実の確認
出典
- e-Gov 法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(昭和31年法律第120号)第5条第2項第4号。2026年1月1日施行(2026年10月17日確認)
- 公正取引委員会「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」第4の9(協議に応じない一方的な代金決定)(2026年10月17日確認)
- 公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)」の案内(2026年10月17日確認)
- 見積帳場の計算(2026年10月17日)。架空の部品1個(0.35kg、加工14分、段取り90分、ロット10個)の単価を、見積の日と協議の日の単価表で積み上げた。scripts/figs/torittekihou_basis.py(2026年10月17日確認)


