カスハラ対策の義務を守らないと罰則は?勧告・公表・過料の流れ
カスハラ対策の義務化(労働施策総合推進法第33条第1項)で、措置を守らなかったこと自体に罰金の罰則はありません。ただし勧告に従わないと公表されることがあり(第42条第2項)、厚生労働大臣の報告の求めに応じない・虚偽の報告をすると20万円以下の過料です(第51条)。施行は2026年10月1日で、条文は会社の規模を分けていません。カスハラ報告ラインが条文を読み、流れ図と、報告に出せる記録の対応表にしました(2026年10月時点)。
全体の流れと費用はカスハラ対策の義務化ガイドのページにまとめています。
要点
- カスハラ防止の措置をしていないこと自体に罰金はなく、勧告に従わないと公表されることがあります(法第42条第2項)。
- 厚生労働大臣の報告の求めに応じない、または虚偽の報告をすると20万円以下の過料です(法第45条第1項・第51条)。
- 措置義務は2026年10月1日施行で、第33条は事業主を規模で分けておらず、従業員10人の会社も対象です。
- 指針の措置10項目のうち4項目は、事案台帳の記録で示しやすい項目です(カスハラ報告ラインの整理)。
目次
この記事は、条文・指針・決定文などの原文を読んで整理したものです。社会保険労務士・弁護士の確認は受けていないため、個別の事案の判断は専門家に確かめてください。
カスハラ対策の義務を守らないと、罰則はありますか?
措置をしていないこと自体に、罰金はありません。起きうるのは、助言・指導・勧告と、勧告に従わないときの公表です。別に、報告の求めに応じないと20万円以下の過料があります。
措置の義務は、労働施策総合推進法の第33条第1項にあります。違反したときの扱いは、第42条・第45条・第51条に分かれています。起きる順に並べると次のとおりで、お金の制裁は第51条の過料だけです。
| 段階 | 条文 | どんなときか | お金の制裁 |
|---|---|---|---|
| 助言・指導・勧告 | 第42条第1項 | 法の施行に関し必要と認めるとき | なし |
| 公表 | 第42条第2項 | 第33条第1項・第2項に違反し、勧告に従わないとき | なし |
| 報告の求め | 第45条第1項 | 第33条第1項・第2項の施行に関し必要な事項 | なし |
| 過料 | 第51条 | 報告をしない、または虚偽の報告をしたとき | 20万円以下 |
この法律の罰金の条文は第49条と第50条です。対象は大量の離職の届出や外国人の雇用状況の届出などで、第33条は入っていません。「罰則なし」と言い切るのも「罰金がある」と書くのも、条文とずれます。
カスハラ防止の義務は、いつから、どの会社にかかりますか?
2026年10月1日から、労働者を雇うすべての事業主にかかります。第33条は事業主を規模で分けていないため、従業員10人の会社も同じ日に始まりました。
改正法(令和7年法律第63号)は2025年6月11日に公布されました。措置の中身を決めた指針は、2026年2月26日に公表されています。厚労省の解釈事項(4月24日、9月30日改訂)と企業マニュアルの改訂版(9月8日)も、施行の前に出そろいました。
例外もあります。船員については、勧告や報告の求めをするのが国土交通大臣になります(第47条第2項)。一般職の国家公務員などには、第33条が適用されません(第48条)。
勧告に従わないときの公表
公表されるのは、第33条第1項・第2項の違反で勧告を受けた事業主が、それでも従わなかったときだけです。措置が足りないと分かった時点で、すぐ会社名が出るわけではありません。
第42条第1項で、厚生労働大臣は助言、指導または勧告ができます。第2項は、勧告に従わなかったときはその旨を公表できると定めます。大臣の権限の一部は、都道府県労働局の局長に委任できます(第46条)。
公表の対象になる違反は、措置をしないことと、相談や事実を述べたことを理由とする不利益な取扱いです。労働局長への援助の申し出や調停の申請を理由とする不利益な取扱い(第36条第2項・第37条第2項)も入ります。
他社からの協力の求めに応じる第33条第3項は努力義務で、公表の対象に入っていません。解釈事項の問19は、協力に応じない会社のことを労働局に相談でき、労働局が助言などをすると答えています。
20万円以下の過料がかかる場面
報告の求めに対して、報告をしないか、虚偽の報告をしたときです。措置が足りないことそのものには、過料はかかりません。
第45条第1項は、厚生労働大臣が第33条第1項・第2項の「施行に関し必要な事項」の報告を事業主に求められると定めます。第51条は、報告をしない者と虚偽の報告をした者を20万円以下の過料に処するとしています。罰金を定める第49条・第50条とは別の条で、実際にいくら科されるかは条文からは分かりません。
何を報告するかは、条文に書かれていません。私は、指針の措置10項目をそれぞれどう実施しているかを聞かれる場面を想定して、記録の仕組みを作っています。困るのは過料の額よりも、いつ何をしたかを記録で答えられないことです。
報告を求められたときに出せる書類と記録
指針の措置10項目のうち4項目は、事案台帳の記録で示しやすい項目です。残りは、文書と周知の記録で示すものが4項目、仕組みだけでは足りないものが2項目です(カスハラ報告ラインの整理)。
この対応表で使う台帳の項目は11個です。6つは、厚労省の企業マニュアル(令和8年度改訂版)にある「本部に共有すべき内容例」です。残りの5つは、指針の措置から私が足しました。
| 指針の措置 | 示す材料 | 事案台帳の項目 |
|---|---|---|
| ⑴イ 方針の明確化と周知 | 方針の文書と周知の記録 | — |
| ⑴ロ 対処の内容の周知 | 方針の文書と周知の記録 | — |
| ⑵イ 相談窓口を定めて周知 | 周知の記録、窓口の定め | — |
| ⑵ロ 窓口担当者が適切に対応 | 担当の定め | — |
| ⑶イ 事実関係の確認 | 事案台帳 | 日時・場所、対応従業員、要望、顧客等の情報、監督者の指示、対応結果、確認の方法 |
| ⑶ロ 被害者への配慮の措置 | 事案台帳 | 被害者への配慮 |
| ⑶ハ 再発防止 | 周知の記録、事案台帳 | 再発防止と共有先 |
| ⑷ 悪質なものへの対処方針と体制 | 方針の文書、担当の定め | 悪質な事案への対処 |
| ⑸イ プライバシー保護 | 方針の文書、事案台帳 | 閲覧者と閲覧の記録 |
| ⑸ロ 不利益取扱いをしない旨 | 方針の文書と周知の記録 | — |
⑵ロと⑸ロは、研修の記録や、就業規則などの規程で示します。日時と場所を分けるなど、記録の項目を14個に細かくした例はカスハラの記録は何を残すかにあります。
第33条のほかに、カスハラで会社が問われる決まりはありますか?
あります。労働契約法の第5条(労働者の安全への配慮)は、労働者が生命・身体等の安全を確保しつつ働けるよう、必要な配慮をすることを使用者に求めています。第33条の措置義務とは別の条文で、罰則の条文ではありません。従業員が会社の責任を問う場面では、会社が何を知り、どう配慮したかが争点になりえます。
労災の認定基準にも、2023年9月の改正でカスハラが入りました。認定するのは労働基準監督署で、見方はカスハラで従業員が体調を崩したら労災になる?にあります。
都道府県の条例もあります。2025年4月1日に、東京都・北海道・群馬県のカスタマーハラスメント防止条例が施行されました。東京都の条例は事業者の措置を努力義務とし、罰則はありません。北海道の条例は、顧客等がカスハラをしてはならないと定め(第5条)、事業者に道の対策への協力と防止の取組を求めています(第6条)。条例があっても、第33条の措置は別に要ります。
| 決まり | 会社に求めること | 守らないとき |
|---|---|---|
| 労働施策総合推進法 第33条 | 指針の措置(10項目) | 勧告・公表、報告の求め(過料) |
| 労働契約法 第5条 | 安全への必要な配慮 | 罰則の条文なし |
| 東京都・北海道・群馬県の条例 | 防止の取組(東京都は努力義務) | 東京都の条例は罰則なし(北海道は本文に罰則の条文なし) |
労働局は、カスハラに当たるかどうかを判断してくれますか?
判断はしません。解釈事項の問45は、労働局は個々の事案が当たるかを判断しないと答えています。事実関係の確認は、事業主の義務です。
労働者と会社の争いには、別の手続きがあります。措置義務と不利益な取扱いをめぐる争いは、労働局長による援助や、紛争調整委員会の調停の対象です(第35条〜第37条)。援助や調停を申し出た従業員を、それを理由として不利益に扱うことも禁じられています。
自社で決めにくい場面は3つです。不利益取扱いの禁止を規程にどう書くかは、社会保険労務士に確かめます。出入り禁止や警告文などの対処は、弁護士に確かめます。労働局から報告を求められたら、届いた文面と手元の記録を顧問の専門家に見せてください。
このサイトで相談するには?
報告フォームや事案台帳は、今の紙やチャットのやり方に合わせて作れます。何をどう頼むか決まっていなくても大丈夫です。
御社のやり方に合わせて、進め方をカスハラ報告ラインが一緒に考えます。準備は要りません。無料で相談するからどうぞ。
よくある質問
- 措置をしていないと、すぐに会社名が公表されますか?
- いいえ。公表は、第33条第1項・第2項に違反して勧告を受け、その勧告に従わなかったときに限られます(第42条第2項)。助言・指導・勧告の段階があります。
- 20万円以下の過料は、措置をしていないとかかりますか?
- いいえ。過料がかかるのは、報告の求め(第45条第1項)に報告をしない、または虚偽の報告をしたときです(第51条)。
- 従業員が5人の会社も、措置の義務がありますか?
- はい。第33条は事業主を規模で分けていません。従業員が少ない会社は、経営者が相談窓口を担うことも厚労省のマニュアルに例として書かれています。
- 労働局は、ある事案がカスハラに当たるか判断してくれますか?
- いいえ。解釈事項の問45で、労働局は個々の事案が当たるかを判断しないとされています。事実の確認は事業主の義務です。
出典
- e-Gov 法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(昭和41年法律第132号、令和7年法律第63号による改正、2026年10月1日施行の本文。第33条・第35〜37条・第42条・第45〜48条・第51条)(2026年10月16日確認)
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」(改正法は令和7年法律第63号、カスハラ防止措置は令和8年10月1日施行)(2026年10月16日確認)
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号、2026年2月26日公表)(2026年10月16日確認)
- 厚生労働省 雇用環境・均等局「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(2026年4月24日、9月30日改訂・10月1日適用。問19・問45)(2026年10月16日確認)
- e-Gov 法令検索「労働契約法」第5条(2026年10月16日確認)
- 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」(令和5年9月1日付け基発0901第2号)(2026年10月16日確認)
- 東京都 産業労働局「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例 Q&A」(2025-03-28)(2026年10月16日確認)
- 北海道公報 号外第24号(令和6年11月29日)北海道カスタマーハラスメント防止条例(北海道条例第81号)(2026年10月16日確認)
- 群馬県 報道提供資料「カスタマーハラスメント防止啓発ポスター等を作成しました」(労働政策課、2025-05-26 更新)(2026年10月16日確認)
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」(2026年9月8日更新。p.33 本社・本部に共有すべき内容例6項目)(2026年10月16日確認)