カスハラの録音は、相手に無断でも問題ない?告知が要る場合と、証拠としての扱い
カスハラの録音を無断で取ること自体を、直ちに違法とする条文は、この記事で開いた法令には見つかりませんでした。ただし、使い方と告知の有無で結論が変わります。個人情報に当たる録音は、利用目的の通知か公表が要ります。個別の判断は専門家へ。録音を事実の確認に使うときの告知の判断の流れと、掲示・電話の文面例を示します(2026年10月時点)。
全体の流れと費用はカスハラ対策の義務化ガイドのページにまとめています。
要点
- 録音を直ちに違法とする条文は、個人情報保護法・民事訴訟法・労働施策総合推進法の条文には見つかりませんでしたが、使い方と告知で結論が変わります。
- 録音が個人情報に当たるなら、利用目的の通知か公表が要ります(個人情報保護法の第21条第1項)。その場で伝える義務までは必ずしも含みません(厚労省 解釈事項 問10)。
- 詐欺の被害者が後日の証拠のために相手との会話を無断で録音した刑事事件で、最高裁は、その場合は同意がなくても違法ではないとしました。
- 録音が人格権の侵害になりうる場面や、顧客以外の会話は、この記事では扱いません。判断は弁護士など専門家へ。
目次
この記事は、条文・指針・決定文などの原文を読んで整理したものです。社会保険労務士・弁護士の確認は受けていないため、個別の事案の判断は専門家に確かめてください。
カスハラの録音は、相手に無断でも違法ですか?
録音そのものを直ちに違法とする条文は、この記事で開いた法令には見つかりませんでした。ただし、録音の使い方と告知の有無で結論が変わるので、「無断なら違法」とも「無断でも問題ない」とも言い切れません。確認日は2026年10月17日です。
開いたのは、個人情報保護法、民事訴訟法、労働施策総合推進法の3つです。どの法律にも、自分が当事者の会話の録音を一般に禁じる条文は読み取れませんでした。ただし、これは3つの法律を確かめた範囲の整理で、ほかの法令や裁判例を網羅したものではありません。刑事事件の最高裁の決定は、証拠の節で読みます。一方で、個人情報に当たる録音には、利用目的の通知か公表と、適正な取得という決まりがかかります。
この記事は、自分の会社の従業員が顧客と話した内容を録音する場面だけを扱います。会話の当事者でない人が仕掛ける録音や、更衣室など私的な場所での録音は対象外です。法的な判断ではなく、条文の読み方の整理として読んでください。
録音の告知は、法律上どこまで要りますか?
録音が個人情報に当たるなら、利用目的を本人に通知するか、あらかじめ公表します。個人情報保護法の第21条第1項の決まりです。声や会話の内容から人が分かる録音は、個人情報に当たるのがふつうです。
厚生労働省の解釈事項は、この点を2つの問いで答えています。問9は、録音を事実関係の確認に使うなら、その用途をできる限り特定して通知か公表するとしています。問10は、通知・公表の義務が、録音しているとその場で伝える義務まで必ずしも含まないとしています。
ただし、個人情報保護法の第20条第1項は、偽りその他不正の手段による取得を禁じています。解釈事項の問10も、カメラの設置状況などから本人が容易に気づけないときは、気づけるようにする措置を求めています。公表の例として挙がっているのは、ポリシーに利用目的を書き、ホームページのトップから1回程度の操作で届く所に載せる方法です。
指針(4⑴ロ)は、録音・録画を対処の例に挙げ、個人情報保護法の遵守を求めています。事実関係の確認(4⑶イ)でも、録音などの客観的な証拠を確認するときに同じ遵守を求めています。録音は措置の手段の1つで、義務そのものではありません。
告知する場合としない場合の分け方
利用目的をすでに公表しているかで、まず分けます。図1は、その流れを運営者が整理したものです。法的判断ではありません。
告知する場合は、ポリシーに利用目的を書き、店頭の掲示や電話のガイダンスでも知らせます。問9が挙げる公表の例はポリシーのホームページ掲載で、掲示だけで足りるかは書かれていません。ポリシーと掲示の併用が無難と考えますが、これは運営者の見立てです。
文面の例は次のとおりです。利用目的は、事実関係の確認に使うことがあると具体的に書きます。
- 店頭の掲示:「当店では、接客中の事実確認と従業員の安全のため、会話を録音することがあります。録音は事案の確認にのみ使います。」
- 電話のガイダンス:「この電話は、対応内容の確認のため録音しています。」
- ポリシー:「録音は、苦情やカスタマーハラスメントの事案の事実関係の確認に使うことがあります。」
告知しない場合は、第21条第4項の例外に当たるかを確かめます。第4号は、取得の状況から利用目的が明らかと認められる場合です。録音を知らない相手には、ふつう当てはまりにくいと考えます。
録音は、裁判などで証拠として使えますか?
証拠として使えるかは、裁判所が事案ごとに判断します。民事訴訟法第247条は、裁判所が口頭弁論の全趣旨と証拠調べの結果を踏まえ、自由な心証で事実を判断すると定めています。この条には、録音だけを証拠から外す規定はありません。
刑事事件では、最高裁判所が次のように判断しました。詐欺の被害を受けたと考えた人が、相手の説明に不審を抱き、後日の証拠にするため会話を録音した事案です。この場合、同意のない録音を違法とせず、録音テープの証拠能力を争う主張に理由はないとしました(最高裁の第二小法廷が平成12年7月12日にした決定です)。事件番号は平成11(あ)96で、刑集54巻6号513頁に載っています。決定文は裁判所ウェブサイトで2026年10月17日に読みました。いつでも許されるという決定ではなく、判示された事情の下での判断です。この記事では民事の裁判例は取り上げていません。民事の裁判でどう扱われるかは事案と使い方で変わるため、弁護士に確かめてください。
録音が使えるかどうかと、録音がどれだけ信用されるかは別の問題です。途中で切れた録音や、日時・場所・相手が分からない録音は、価値が下がります。事案の記録と録音を結びつける方法は、カスハラの記録の項目の記事にあります。
特に悪質な言動への対処は、指針の4⑷が方針をあらかじめ定めることを求めています。例は、警察への通報、警告文の発出、法令の制限内で販売やサービスをしないことなどです。実際に使う場面では、録音と記録が事実を示す材料になります。
録音を使う事案が訴訟や警察への届け出に進むなら、弁護士に録音を渡す前に、元のファイルを消さずに保管します。録音の文字起こしの精度は、文字起こしの実験の記事で測りました。文字だけで済ませず、元の音声を残してください。保管量は、16kHz・16bit・モノラルのWAVで30分が約57.6MB、64kbpsの圧縮で約14.4MBです(年60件を5年残すなら、WAVで約17.28GB。年の事案数は仮置きの計算値です)。
録音が問題になりうる場面
録音の目的や場所、使い方によっては、録音がプライバシーや人格権の侵害として争われることがあります。図1の流れは、そうした場面には当てはまりません。条文だけでは決まらないので、個別の事案は弁護士に確かめてください。
当てはまらない場面の例は、次のとおりです。
- 更衣室・休憩室など、私的な場所での録音
- 従業員どうしの相談や雑談の録音
- 目的に書いていない使い道(評価や懲戒への流用など)
- 通知や公表をせず、録音を知らない相手に不正な手段で取る録音
1と2は、顧客の言動の確認という目的から外れます。3は、特定した利用目的を超える利用の問題です。4は、第20条の適正な取得と第21条の通知・公表に関わります。
また、個人情報に当たらない録音や、法令に基づく場合などの例外もあります。そのときは、通知・公表の決まりが違う形でかかります。自社の録音がどれに当たるかは、顧問の弁護士や個人情報保護法に詳しい専門家と決めてください。
このサイトで相談するには?
録音の運用を報告と記録の流れにどう組み込むかは、カスハラ報告ラインの無料で相談するからお尋ねください。何をどう頼むか決まっていなくても大丈夫です。準備は要りません。ポリシーや録音をお見せいただかなくても、御社のやり方に合わせて進め方を一緒に考えます。
よくある質問
- 相手に言わずに録音しても、違法になりませんか?
- 録音そのものを直ちに違法とする条文は、開いた法令に見つかりませんでした。ただし個人情報の利用目的の公表は要ります。個別の判断は専門家へ。
- 電話のガイダンスで録音を知らせれば、足りますか?
- 知らせることは、相手が気づける形になり、公表の1つにもなります。足りるかは利用目的の書き方しだいなので、ポリシーと併せて専門家に確かめてください。
- 録音は、裁判で証拠に使えますか?
- 使えるかは裁判所が事案ごとに決めます。詐欺の被害者が後日の証拠のために会話を同意なく録音した刑事事件では、最高裁は違法ではないとしました。民事の扱いと個別の事案は弁護士に確かめてください。
出典と数字の作り方
- e-Gov 法令検索「個人情報の保護に関する法律」第17条・第20条・第21条(2026年10月17日確認)
- e-Gov 法令検索「民事訴訟法」第247条(2026年10月17日確認)
- e-Gov 法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」第33条(2026年10月17日確認)
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)4⑴ロ・4⑶イ・4⑷(2026年10月17日確認)
- 厚生労働省 雇用環境・均等局「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(令和8年9月30日改訂)問9・問10(2026年10月17日確認)
- 最高裁判所の決定(最高裁判所第二小法廷 平成12年7月12日決定、平成11(あ)96、詐欺被告事件、刑集54巻6号513頁。裁判所ウェブサイト 裁判例)(2026年10月17日確認)
- e-Gov 法令検索「労働者災害補償保険法」第42条・「民法」第724条の2(保管年数5年の根拠。カスハラの記録の項目の記事で確認済み)(2026年10月16日確認)
- カスハラ報告ラインの計算(2026年10月17日、録音の保管量。式は本文のとおり。scripts/figs/rokuon_hokan.py)(2026年10月17日確認)