カスハラで従業員が体調を崩したら労災になる?心理的負荷の認定基準の読み方と、記録の残し方
カスハラで従業員が精神障害になったとき、労災と認められることがあります。ただし認定するのは労働基準監督署長で、会社が決めるものではありません。厚生労働省の認定基準は、発病前おおむね6か月の業務による心理的負荷を別表1で「強」「中」「弱」に分け、顧客等からの著しい迷惑行為は項目27です。カスハラ報告ラインが事案台帳の14項目を仕分けると、認定の視点に直接答えるのは10項目で、欠けているのは「その後の業務への支障」でした。記録があれば認定される、という意味ではありません。(2026年10月時点)
全体の流れと費用はカスハラ対策の義務化ガイドのページにまとめています。
要点
- カスハラで従業員が精神障害になったとき、労災と認めるかを判断するのは労働基準監督署長で、会社が決めるものではありません(認定基準 第6)。
- 認定は、発病前おおむね6か月の業務による出来事を別表1で評価します。顧客等からの著しい迷惑行為は項目27で、平均的な強度はⅡです(2023年9月の改正で追加)。
- 事案台帳14項目のうち、項目27の視点に直接答えるのは10項目、裏付けや手がかりが4項目です。5つの視点で専用の欄がないのは「その後の業務への支障」だけでした(運営者の仕分け)。
- 台帳は労災の時効(2年・5年)から5年を下限にすると、1年に60件で300行、余裕を1年足すと360行です。何年にするかは顧問の社会保険労務士と決めてください。
目次
この記事は、条文・指針・決定文などの原文を読んで整理したものです。社会保険労務士・弁護士の確認は受けていないため、個別の事案の判断は専門家に確かめてください。
カスハラで従業員が体調を崩したら、労災になりますか?
労災と認められることがあります。ただし、認めるかどうかを判断するのは労働基準監督署の署長で、会社が決めるものではありません。厚生労働省の認定基準は、署長が主治医の意見などをもとに、認定要件を満たすかを判断すると定めています(第6)。
要件は3つで、すべて満たす精神障害が業務上の疾病として扱われます(第2)。
| 要件 | 中身 | 認定基準 |
|---|---|---|
| 1 発病している | 疾患名と発病時期は、主治医の意見などから医学的に判断する | 第4の1⑴ |
| 2 強い心理的負荷がある | 発病前おおむね6か月の間の業務による出来事を、別表1で「強」「中」「弱」に分ける。「強」なら満たす | 第4の2 |
| 3 業務外の要因でない | 業務以外の負荷や個体側の要因で発病したとは認められない | 第4の3 |
この記事は一般的な解説で、個別の事案が認定されるかを示すものではありません。体調を崩した従業員が出たときは、本人は主治医に、会社は顧問の社会保険労務士に、手続きと判断を確かめてください。
認定基準の別表1でのカスハラの評価
顧客等からの著しい迷惑行為は、別表1の項目27です。平均的な心理的負荷の強度は、Ⅲ・Ⅱ・Ⅰのうち中間のⅡです。著しい迷惑行為とは、暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等をいいます(項目27の注)。厚生労働省は2023年9月1日付けの通達(基発0901第2号)で評価表を見直し、この出来事を加えました。
| 強度 | 項目27の具体例(要約) |
|---|---|
| 強 | 治療を要する程度の暴行を受けた。暴行、人格や人間性を否定する言動、社会通念上許容されない威圧的な言動のいずれかを、反復・継続して執拗に受けた。「中」程度の迷惑行為があり、会社に相談しても、または会社が把握していても適切な対応がなく、改善されなかった |
| 中 | 治療を要さない程度の暴行、人格否定の言動、威圧的な言動のいずれかを受け、行為が反復・継続していない |
| 弱 | 「中」に至らない程度の言動を受けた |
同じ言動でも、続いたか、会社が対応したかで強度が変わります。表のとおり、「強」には回数と会社の対応が入っています。「執拗」は回数だけで決まりません。1回でも比較的長時間で、態様が強烈で悪質なときは、執拗と評価される場合があります(第4の2⑵カ)。
評価の対象になる期間は、発病前おおむね6か月です。繰り返される言動は、6か月より前に始まっていても、期間中も続いていれば、始まりからのすべてが対象です(第4の2⑷ア)。強さは本人の受け止めではなく、同種の労働者が一般にどう受け止めるかで判断します(第4の2⑴)。
事案台帳の14項目のうち、認定の判断に使えるのはいくつですか?
14項目のうち10項目が、項目27の視点に直接答えます。残る4項目は裏付けや手がかりです。項目27の「総合評価の視点」は5つです。経緯・状況、内容・程度・相手方との関係、反復・継続、その後の業務への支障、会社の対応・改善の状況が並びます。
台帳の14項目はカスハラの記録は何を残すかの表にあります。この5つに当てはめたのが次の表です。
| 視点(別表1 項目27) | 台帳の項目 | 個数 |
|---|---|---|
| 経緯・状況 | 7 きっかけと経緯 | 1 |
| 内容・程度・相手方との関係 | 4 顧客等の情報、5 要望の内容、6 言動 | 3 |
| 反復・継続 | 1 日時、8 回数と続いた時間 | 2 |
| 会社の対応・改善の状況 | 9 現場監督者の指示、10 対応の結果、13 被害者への配慮、14 再発防止と共有先 | 4 |
| その後の業務への支障 | 専用の欄なし | 0 |
裏付けになるのは、場所と手段、対応した従業員、録音・録画・目撃者、本人の受け止めです。強度は本人の受け止めではなく一般の労働者の目で評価するので、項目12は直接には数えていません。
視点5つのうち、台帳に専用の欄がないのは「その後の業務への支障」だけです。運営者は、項目12に、欠勤や担当の変更を事実で添えることを勧めます。体調の診断は主治医が行うため、台帳には病名や診断を書きません。
仕分けは運営者1人の判断で、第三者の確認は受けていません。認定基準が台帳を求めているわけでもありません。
台帳を何年残すと何行になるか
5年を下限にすると、1年に60件の会社で台帳は300行になります。根拠は労災保険法第42条第1項です。療養補償給付や休業補償給付などを受ける権利は2年、障害補償給付や遺族補償給付などは5年で、時効によって消えます。起算は、権利を行使できるようになった時で、事案の日とは限りません。
運営者は、長いほうの5年を下限にして、余裕を1年足した6年を例にします。6年は法令の期間ではなく、運営者の設計です。1事案を1行とすると、行数は1年の件数に保存年数をかけた値です。
| 1年の件数 | 2年保存 | 5年保存 | 6年保存 |
|---|---|---|---|
| 12件 | 24行 | 60行 | 72行 |
| 60件 | 120行 | 300行 | 360行 |
| 120件 | 240行 | 600行 | 720行 |
| 360件 | 720行 | 1,800行 | 2,160行 |
件数が少ないほど、5年分でも行は少なくて済みます。損害賠償の請求の期限や、期間を過ぎた記録を消す決まりは、記録の記事に書きました。保存の年数は、顧問の社会保険労務士・弁護士と決めてください。
体調を崩した従業員が出たときの記録の扱い
事実を、日付と回数で出せるようにしておきます。認定基準は、発病の有無を、認定事実で医学的に判断するとしています。認定事実は、主治医の意見書や診療録、請求人や関係者からの聴取内容などから得ます(第4の1⑴)。会社の記録は、その事実を確かめる材料の1つです。
運営者の考えでは、次の3つを守ります。
- 台帳の13(被害者への配慮)と14(再発防止)を、事案の後すぐに埋める。「強」の例に会社の対応が入っているため
- すでに書いた内容を書き換えず、あとから分かったことは日付をつけて足す
- 労災かどうか、休職をどう扱うかは、会社で決めずに顧問の社会保険労務士に相談する
カスハラ対策の義務を守らないと罰則は?で措置義務と罰則を、相談窓口は店長でいいかで報告を受ける窓口を扱っています。全体の見取り図はカスハラ対策の義務化ガイドにまとめています。
このサイトで相談するには?
台帳に「その後の業務への支障」の欄を足すかどうかも、今の報告の流れを見ながら考えます。何をどう頼むか決まっていなくても大丈夫です。御社のやり方に合わせて、進め方を一緒に考えます。準備は要りません。
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よくある質問
- 会社が「労災ではない」と判断すれば、労災にならないのですか?
- いいえ。認定基準では、労働基準監督署長が認定要件を満たすかを判断します。主治医の意見を求め、必要なときは専門医の意見も聞きます(第6)。
- 1回の暴言でも、労災になりますか?
- 1回の暴言だけの例は、項目27の「強」に挙がっていません。「強」の例は、治療を要する暴行か、反復・継続した言動などです。ただ、1回でも長時間で悪質なら執拗と評価される場合があります(第4の2⑵カ)。
- カスハラが6か月より前に始まっていたら、対象外ですか?
- いいえ。繰り返される言動が発病前おおむね6か月の間も続いていれば、始まりからのすべての行為が評価の対象です(第4の2⑷ア)。
- 台帳に、体調や欠勤の欄は要りますか?
- 項目27の視点に「その後の業務への支障」があるので、運営者は項目12に欠勤や業務の変化を事実で添えることを勧めています。体調の判断は主治医に任せ、台帳には書きません。
出典と数字の作り方
- 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(令和5年9月1日付け基発0901第2号、別添 認定基準。第2・第4の1⑴・第4の2⑴〜⑷・第6、別表1 項目27)(2026年10月17日確認)
- 厚生労働省「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」(資料1 改正の概要。評価表の見直しとして、顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた、が追加)(2026年10月17日確認)
- e-Gov 法令検索「労働者災害補償保険法」第42条第1項(2026年10月17日確認)
- カスハラ報告ラインの数え(2026年10月17日、事案台帳14項目を別表1 項目27の視点5つに仕分け、保存年数から行数を計算した。scripts/figs/rousai_mental_kiroku.py)(2026年10月17日確認)