見積の自動化事例の効果「3時間→30分」は何の数字?公開事例3件の条件と、R²と1件ごとの誤差の計算

見積の自動化の公開事例に出てくる効果の数字は、何件を、いつ、どう測ったかを確かめてから読む必要があります。経済団体の事例集(2018年)にある金型メーカー(従業員60人台)の例では、見積作成が3時間/件から30分/件に、作れる人が1名から5名になりました。ただし、何件の平均か、いつ測ったかは書かれていません。見積帳場の架空データの計算では、R²が0.94でも誤差20%超の見積が9.7%残りました(2026年10月時点)。
全体の流れと費用は製造業の見積の自動化のページにまとめています。
要点
- 見積の自動化の公開事例の数字は、分母・測り方・時期が書かれていないことが多く、自社の効果の目安にはそのまま使えません。
- 金型メーカー(従業員60人台)の例は見積3時間/件→30分/件、担当1名→5名ですが、何件の平均か、いつ測ったかは書かれていません(経済団体の事例集、2018年)。
- 同じ頁の「10件/日→2件/日」とあわせても、3時間が手を動かした時間か、依頼から提出までの時間か、10件が何の数かは、資料から読み取れません。
- R²は価格の幅で変わります。架空データでは1件ごとの誤差が同じまま、幅2.1倍でR²0.82、幅21.2倍で0.98でした(計算値)。
- 自社で確かめるときは、同じ種類の見積の作成時間を導入の前と後で同じ測り方で数え、予測は1件ごとの誤差と20%超の件数で見ます。
目次
見積の自動化の公開事例の数字は、どこまで分かっているのですか?
公開されている見積の自動化の事例には、効果の数字はあります。ただ、何件の平均か、いつ測ったか、何と比べたかはほとんど書かれていません。読み直した3件の事例のうち、分母と測り方の両方が分かるものはありませんでした。
3件の資料の条件を、同じ項目で並べました。どれも、自社で同じ効果が出るかを判断するには材料が足りません。
| 資料(発表元・年) | 示された数字 | 分母(何件) | 測り方・期間 | 発表元の立場 |
|---|---|---|---|---|
| 金型メーカー(従業員60人台)経済団体の事例集、2018年 | 見積3時間/件→30分/件、担当1名→5名、ベテラン10件/日→2件/日 | 記載なし | 測り方・時期の記載なし。開発は2016年から2年間 | 企業の取り組みを経済団体がまとめたもの |
| ボルト製造の1社(経済産業局の資料、2024年度) | 加工時間の予測モデルの例でR²=0.975 | 学習件数の記載なし | 金額にしたときの誤差の記載なし | 受講生チーム5名の取り組みの資料 |
| ゴム加工の1社(経済産業局の資料、2024年度) | 切削加工1件15分→短縮後の値は伏せ字 | 図面100枚から始める計画 | 加工方法7種類のうち切削だけに限定 | 受講生チームの取り組みの資料 |
国や経済団体の資料は、企業の取り組みを紹介するために作られています。効果を測る調査として作られたものではないため、分母が書かれていないのは資料の性格によるものです。
「3時間→30分」は、何を測った数字ですか?
金型メーカーの「3時間/件→30分/件」は、見積1件を作る時間が短くなったという企業の申告です。何件の平均か、いつ測ったかは書かれていません。経済団体の事例集(2018年)に載っている数字です。
同じ頁には、ベテラン担当者の見積対応が「10件/日→2件/日」と並んでいます(原本の頁で確認しました)。ただ、この頁から読み取れないことがあります。
- 3時間が、手を動かした時間なのか、依頼から提出までの待ちを含む時間なのか
- 10件が、受けた依頼の数なのか、仕上げた見積の数なのか
- 3時間と10件が、同じ種類の見積について測った値なのか
そのため、「3時間/件」と「10件/日」を組み合わせた計算は、この頁の数字だけではできません。効果の根拠には、事例集の数字そのものではなく、自社で測った値を使います。
ベテランの負荷が10件/日から2件/日になった点は、見積を作れる人が1名から5名になった点と合わせて読みます。10件を5人で分けると、1人2件です。この数字には、速くなった分と人で分けた分が混ざっている可能性があります。
従業員数の書き方は、資料によって違うことがあります。数字を引くときは、資料の種類と年を一緒に書きます。
「R²=0.975」は、予測がどれくらい当たるという意味ですか?
R²は、予測が金額や時間のばらつきをどれだけ説明できるかを表す値で、1件ごとの外れの大きさは表しません。経済産業局の資料にあるR²=0.975は、加工時間を予測するモデルの例です。学習に使った件数と、金額にしたときの誤差は書かれていません。
金額が1,241円から26,209円まで散らばる、見積らしい架空の過去見積2,000件を作り、見積帳場で計算しました。1件ごとに同じ大きさのばらつきで外れる予測を付けると、R²は0.94でした。それでも誤差の平均は9.7%で、誤差が20%を超える見積が9.7%(約194件)ありました。
R²は価格の幅でも変わります。1件ごとの誤差を同じにしたまま、価格の幅だけを変えて計算しました。上位10%と下位10%の境の比が2.1倍ならR²は0.82、21.2倍なら0.98でした。安い品物と高い品物が混ざるほど、外れが同じでもR²は高く出ます。
計算はscripts/figs/case_numbers.pyです。予測は実際の金額に、1件ごとのばらつき(対数正規、σ=0.12)を掛けて作りました。
p = y * rng.lognormal(0, 0.12, len(y)) # 1件ごとに同じ大きさで外れる予測
r2 = 1 - ((y - p) ** 2).sum() / ((y - y.mean()) ** 2).sum()
ape = abs(p - y) / y # 1件ごとの誤差
over20 = (ape > 0.2).mean() # 誤差20%超の割合
逆に、R²=0.975になるばらつきを価格の幅ごとに探しました。誤差20%を超える見積の割合は、幅2.1倍では0%、21.2倍では18.0%です。R²の値だけでは、外れる見積の多さは分かりません。
ほかの事例や調査の数字は、どう読めばよいですか?
対象を絞った条件と、発表元の立場を先に確かめます。ゴム加工の1社の資料は、加工方法が7種類あるうち、手順を言葉にする手間を考えて切削加工だけに絞っています。図面100枚から始める計画で、短縮後の時間は伏せ字です。
対象を絞るのは、始め方としては筋が通っています。ただ、絞った範囲の効果を会社の見積全体に広げては読めません。
担当者ごとの差がどこから生まれるかは、担当者で見積が違う理由の計算で、丸め方・段取りの按分・材料のロス率・利益率の決まりが人ごとに違うかどうかを分けて確かめています。
自社で同じ効果が出るかは、どうやって確かめればよいですか?
公開事例の数字を当てはめるのではなく、自社の見積で導入の前と後を同じ測り方で数えます。分母と測り方を自分で決めれば、事例集に書かれていない部分を埋められます。
- よく出す見積を1種類に絞り、20件ほど選ぶ
- 1件ごとに、手を動かした時間と、依頼から提出までの日数を分けて記録する
- 誰が作ったかを記録し、速くなった分と人で分けた分を区別する
- 予測を使うなら、R²ではなく1件ごとの誤差と、20%を超えた件数を数える
- 仕組みを入れた後も、同じ種類の見積で同じ記録を取る
見積帳場で計算ルールを作るときも、この記録を導入の前と後で取ってから効果を話します。社長の値決めを書き出す手順は見積の属人化を解消する手順にまとめました。値引き・特急・材料の時価のように人が決める所は、測る対象から外して別に数えます。
公開事例の数字を自社に当てはめて読むには?
公開事例の数字が自社に当てはまるかを、今の見積の出し方をうかがいながら、見積帳場の主宰が一緒に見ます(無料で相談する)。何をどう頼むか決まっていなくても大丈夫です。御社のやり方に合わせて、進め方を一緒に考えます。準備は要りません。
よくある質問
- 見積の自動化で、作成時間はどれくらい減りますか?
- 決まった値はありません。公開事例には3時間/件から30分/件の例がありますが、何件の平均かは書かれていません。自社の見積で導入の前と後を測って確かめます。
- R²が0.9を超えていれば、予測は使えますか?
- いいえ、R²だけでは決められません。架空データの計算では、R²0.94でも誤差20%を超える見積が9.7%ありました。1件ごとの誤差の分布を見ます。
- 公開事例の数字を、社内の説明に使ってもよいですか?
- 使えます。ただし発表元・年・従業員数と、何件の平均か書かれていないことを一緒に書きます。自社の効果の約束としては使いません。
- 自社の効果は、何件くらい測れば分かりますか?
- 目安は同じ種類の見積で20件ほどです。種類の違う見積を混ぜると、時間の差が仕組みの効果か見積の難しさかを分けられません。
この数字はどう出したか
このページの実験と計算の数字は、実際のお客さまの取引ではなく、架空のデータや架空の入力例から主宰が出したものです。計算はPythonのコード(scripts/figsの再現コードと、画面の計算機と同じ式のsrc/lib/calc.ts)で組み、同じ入力なら同じ数字が出ます。
更新 ・ 事実の確認
出典
- 経済団体の事例集「ICT・IoT・AI等活用事例集」(2018年12月。金型メーカー1社の頁。企業の取り組みを事例集がまとめたもの)(2026年10月16日確認)
- 国の経済産業局が公開する2024年度の事例資料(受講生チームによる取り組み2社分。予測モデルの例 R²=0.975、対象を切削加工に限定した例)(2026年10月16日確認)
- 見積帳場「R²と1件ごとの金額の誤差」の計算と図のスクリプト(scripts/figs/case_numbers.py)、データはすべて架空、2026-10-16 実行(2026年10月16日確認)


