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コラム基礎知識

カスハラと正当なクレームの線引きは?指針の9類型を基準に架空の12件で確かめる

カスハラと正当なクレームの線引きは、要求の「内容」と伝え方の「手段・態様」のどちらか一方でも社会通念上の範囲を超えるかを基準に考えます(カスハラ防止指針2⑸)。範囲の中の申入れは「正当な申入れ」で、当たりません。カスハラ報告ラインの主宰が自分で書いた架空の申し出12件を指針の9類型に当てはめると、正当3件・窓口で検討4件・類型に当たる5件に分かれました。実在の事案の統計ではありません(2026年10月時点)。

全体の流れと費用はカスハラ対策の義務化ガイドのページにまとめています。

要点

  • 指針2⑸は、要求の内容か伝え方の手段・態様の一方だけが範囲を超えても、カスハラに当たり得るとしています。
  • 厚労省の令和5年度調査(企業7,780社が回答)では、正当なクレームとの判断基準が難しいとする企業が25.9%でした。
  • 運営者が書いた架空の申し出12件を9類型に当てはめると、正当な申入れ3件、窓口で検討4件、類型に当たる5件でした(実在の事案の統計ではありません)。
  • 類型に当たる5件のうち3件は伝え方だけが理由で、うち1件は要求そのものは正当でした。
目次
  1. カスハラと正当なクレームの線引きは、何で決まるのですか?
  2. 要求が正当でも、伝え方しだいでカスハラに当たり得るのですか?
  3. 判定の流れ図と確かめる順
  4. 運営者が書いた架空の12件の当てはめ結果
  5. 「窓口で検討」に回った申し出の扱い
  6. このサイトで相談するには?
  7. よくある質問

カスハラと正当なクレームの線引きは、何で決まるのですか?

決め手は、要求の「内容」と伝え方の「手段・態様」が、社会通念上許容される範囲に収まっているかです。厚生労働省のカスハラ防止指針2⑸は、どちらか一方だけが範囲を超えても当たり得るとしています。範囲の中の申し出は「正当な申入れ」で、カスハラには当たりません(指針2⑴)。

線引きに迷う会社は少なくありません。厚労省の令和5年度の実態調査は、従業員30人以上の企業7,780社から回答を得ました。取組の課題に「迷惑行為と正当なクレームや要求とを区別する明確な判断基準を設けることが難しい」を挙げた企業は25.9%です。「特にない」の32.1%に次ぐ2番目です。

指針の類型と、迷う事情があるかどうかで分けると、申し出は次の3つになります。件数は、後で説明する架空の12件で数えた結果です。定義の3要素と9類型の一覧はカスタマーハラスメントとはにまとめています。

分け方 目安(指針の番号) 架空12件での件数 次にすること
正当な申入れ 内容も伝え方も範囲の中(2⑴) 3件 申し出に応じ、経緯は記録する
窓口で検討 類型には近くないが、迷う事情がある(4⑵ロ) 4件 相談窓口で事実を確かめる
類型に当たる 内容4類型か態様5類型のどれかに近い(2⑸) 5件 就業環境への影響と事情を総合して判断する

要求が正当でも、伝え方しだいでカスハラに当たり得るのですか?

はい、当たり得ます。指針2⑸は「言動の内容」「手段や態様」の一方のみが範囲を超える場合でも該当し得ると書いています。不具合品の交換を求めること自体は正当です。それでも、断られて「SNSに書く」とほのめかして脅せば、態様の②精神的な攻撃に近づきます。

逆向きもあります。口調が丁寧でも、商品やサービスと関係のない損害賠償を求めれば、内容の④不当な損害賠償要求に近くなります。架空の12件では、類型に当たる5件のうち、伝え方だけが理由のものが3件、要求の中身だけが理由のものが2件でした。

架空の申し出12件を、9類型と「迷う事情」に当てはめた表●=当てはまる類型、○=どちらとも言い切れない事情。右端が分けた結果内容(イ)手段・態様(ロ)イ①イ②イ③イ④ロ①ロ②ロ③ロ④ロ⑤迷う1スーパー正当な申入れ2ドラッグストア正当な申入れ3ホテル正当な申入れ4飲食店窓口で検討5コールセンター窓口で検討6学習塾窓口で検討7保育園窓口で検討8スーパー類型に当たる9家電店類型に当たる10飲食店類型に当たる11訪問介護類型に当たる12コールセンター類型に当たる場面架空の申し出12件(実在の事案ではない)。分け方はカスハラ報告ライン 主宰、2026年10月16日。法的な判断ではない
図1 架空の申し出12件の当てはめ。カスハラ報告ラインの主宰が指針2⑸の9類型に当てはめました(2026年10月16日)。実在の事案ではありません。法的な判断でもありません。

類型に近いだけでは決まりません。指針は、目的、経緯や状況、業種・業態、頻度・継続性、労働者の心身の状況などを合わせて考えるとしています。事業主や労働者の対応がまずく、それが原因や背景になっている場合もある、とも書いています。「就業環境が害される」かは平均的な労働者の感じ方で見て、強い苦痛を与える言動なら1回でも当たり得ます(指針2⑹)。

判定の流れ図と確かめる順

伝え方、要求の中身、迷う事情の順に3つの問いを立てると、申し出を3つに分けられます。指針2⑸の9類型をそのまま問いに置き換えた図が、図2です。

申し出を3つに分ける順番(指針2⑸の9類型から作った流れ図)Q1 伝え方(手段・態様)は、5類型に近いか身体的な攻撃/精神的な攻撃/威圧的/継続的・執拗/拘束的Q2 要求の中身(内容)は、4類型に近いか理由がない/契約を著しく超える/著しく困難・不可能/不当な損害賠償Q3 どちらとも言い切れない事情はあるか自社側の対応が原因/1回きり/こちらが答えていない など類型に当たる2つのどちらか1つで足りるはい類型に当たるはい窓口で検討広く相談を受ける(4⑵ロ)はいいいえいいえいいえ正当な申入れ(指針2⑴:カスハラに当たらない)「当たる」の2つも、就業環境が害されたかと事情の総合で決まる出典:厚生労働省 カスハラ防止指針(令和8年厚生労働省告示第51号)2⑴・2⑸・2⑹・4⑵ロ。図はカスハラ報告ライン 主宰が作成(2026年10月16日)
図2 申し出を3つに分ける流れ図。指針2⑴・2⑸・2⑹・4⑵ロから主宰が作りました。「類型に当たる」も、カスハラと決めたことにはなりません。

私が仕組みを作るときは、伝え方を先に問います。暴言や長時間の電話は、その場にいた人が見たまま書けるからです。要求が契約を著しく超えるかどうかは、契約書や経緯を見ないと分からないことが多く、現場で決めきれません。

この図は、窓口に回すかどうかの目安です。指針は9類型の例を限定列挙ではないとしており、類型に近くない申し出でも当たる場合はあります。迷ったら「窓口で検討」に寄せるのが、指針4⑵ロの「広く相談に対応」に沿った置き方です。

運営者が書いた架空の12件の当てはめ結果

正当な申入れ3件、窓口で検討4件、類型に当たる5件に分かれました。業種は小売・飲食・ホテル・介護・保育・塾・コールセンターで、申し出はすべて運営者1人が書いた架空のものです。書き方は、先に場面と要求の中身・伝え方を決め、そのあと指針2⑸の内容4類型・態様5類型に当てはまるかを表で確かめました。第三者の判定は受けていないので、数字は「この12件ではこう分かれた」という例で、世の中の割合ではありません。

# 場面 申し出(架空) 当てはめ 分け方
1〜3 スーパー・ドラッグストア・ホテル 異物の返金、筆談での説明、清掃不備で部屋の交換 なし 正当な申入れ
4 飲食店 予約の取り違えで1回だけ大声、10分で収まる 迷う事情 窓口で検討
5 コールセンター 自社の誤請求が原因で、40分説明を求める 迷う事情 窓口で検討
6・7 学習塾・保育園 授業料の全額返金、答えていない質問の連絡帳 迷う事情 窓口で検討
8・9 スーパー・家電店 「無能」の連呼、「SNSに書く」 態様② 類型に当たる
10・11 飲食店・訪問介護 無関係のしみに慰謝料10万円、職員の私用番号 内容④・内容① 類型に当たる
12 コールセンター 回答後も2時間電話を切らせない 態様⑤ 類型に当たる
12件の分かれ方:正当な申入れ3件、窓口で検討4件、類型に当たる5件正当な申入れ3件窓口で検討4件類型に当たる5件類型に当たる5件の内訳:伝え方(態様)だけ 3件、要求の中身(内容)だけ 2件、両方 0件態様だけの3件のうち1件(9番)は、要求そのもの(不具合品の交換)は正当でした架空の申し出12件(実在の事案ではない)。分け方はカスハラ報告ライン 主宰、2026年10月16日。法的な判断ではない。scripts/figs/senbiki_cases.py で再現できる
図3 12件の分かれ方(架空データ)。当てはめは本文の表のとおりで、表から数え直せます。

分け方の規則は、次の3行だけです。

def classify(naiyou, taiyou, bika):
    if naiyou or taiyou:      # 内容4類型・態様5類型のどれかに近い
        return '類型に当たる'
    if bika:                  # 類型には近くないが、迷う事情がある
        return '窓口で検討'
    return '正当な申入れ'

限界もあります。どの類型に近いかは主宰が1人で決めたもので、別の人が6番(授業料の全額返金)を内容②に置くことも考えられます。件数は判断のぶれを見るための例で、割合として読むものではありません。

「窓口で検討」に回った申し出の扱い

相談窓口で事実を確かめてから、当たるかどうかを決めます。指針4⑵ロは、該当するか微妙な場合も広く相談に対応するよう求めています。窓口は上司にあたる管理監督者でもよく、ほかのハラスメントの窓口と一体でなくてよいとされています(解釈事項の問11)。

架空の4件に共通するのは、1回きり、原因が自社側、こちらが答えていない、という事情です。記録の段階では、「カスハラかどうか」を現場に決めさせないほうが扱いやすくなります。近い類型と、日時・言葉・続いた時間・こちらの対応を残せば、窓口で比べられます。カスハラ報告ラインが作る報告フォームも、現場は近い類型を選ぶだけで、当たるかどうかは後で責任者が決める形にしています。

専門家に確かめる場面は、出入り禁止や販売の停止を決めるとき、損害賠償を請求し返すとき、警察への通報を迷うときです。指針は、対処の例に弁護士への相談と警察への通報を挙げています。消費者の権利や障害者差別解消法の合理的配慮にも留意するよう求めています。

このサイトで相談するには?

迷った申し出を記録して窓口に届ける仕組みなら、カスハラ報告ラインでお手伝いします。何をどう頼むか決まっていなくても大丈夫です。

御社のやり方に合わせて、進め方を一緒に考えます。準備は要りません。無料で相談するからどうぞ。

よくある質問

指針の9類型に当てはまらなければ、カスハラではないのですか?
いいえ、そうとは限りません。指針は、9類型の例は限定列挙ではなく、事案によって判断が異なることもあるとしています。
1回だけの暴言でも、カスハラに当たることはありますか?
はい、あり得ます。指針2⑹は、強い身体的・精神的苦痛を与える言動なら、1回でも就業環境を害する場合があるとしています。
障害のある客から配慮を求められたら、どう考えますか?
求めること自体はカスハラに当たりません。指針2⑴は、社会的障壁の除去を求める意思の表明などは当たらないとし、合理的配慮の義務に触れています。
正当なクレームだった申し出も、記録に残しますか?
はい。厚労省の企業マニュアルは、カスハラに至らなかったものも含めて、申し出の内容と対応の経緯・結果を記録して共有する例を挙げています。
社内の判断基準は、何を参考に作る会社が多いですか?
厚労省のマニュアルが最多で25.3%でした(令和5年度調査)。同じ調査では、3割以上の企業が判定基準をまだ作っていませんでした。

出典

  1. 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号、令和8年2月26日公表。2⑴定義、2⑸内容4類型・態様5類型、2⑹、4⑵ロ)(2026年10月16日確認)
  2. 厚生労働省 令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」概要版(厚生労働省の委託調査、令和6年3月。企業調査 有効回答7,780件、2023年12月実施)(2026年10月16日確認)
  3. 厚生労働省 雇用環境・均等局「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」(令和8年4月24日、9月30日改訂・10月1日適用。問11 相談窓口)(2026年10月16日確認)
  4. 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(令和8年度改訂版、2026年9月8日更新。カスハラに至らなかったものも含めた記録)(2026年10月16日確認)