カスハラ対策をしていない会社は何割?厚労省の実態調査を規模別・業種別に読み直す
厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」(企業7,780社が回答)では、顧客等からの著しい迷惑行為の予防・解決の取組を何も実施していない企業が、従業員99人以下で42.5%、1000人以上で30.2%でした。労働者8,000人のうち過去3年に受けた人は10.8%です。カスハラ報告ラインの主宰が、概要版の数字を規模別・業種別に読み直しました(2026年10月時点)。
全体の流れと費用はカスハラ対策の義務化ガイドのページにまとめています。
要点
- 厚労省の令和5年度調査(企業7,780社)で、カスハラの取組を何も実施していない企業は99人以下42.5%、1000人以上30.2%でした。
- 労働者8,000人のうち過去3年に顧客等から著しい迷惑行為を受けた人は10.8%、業種別では生活関連サービス業・娯楽業の16.6%が最も高い値です。
- 取組の課題の2位は「正当なクレームと区別する判断基準を設けるのが難しい」で25.9%でした(1位は「特にない」32.1%)。
- 回答企業の57%は300人以上で、300人未満だけで計算し直すと何も実施していない企業は40.4%です(計算値)。
目次
カスハラ対策を何もしていない会社は、何割ありますか?
厚生労働省の令和5年度の実態調査では、カスハラの取組を何も実施していない企業は全体の35.5%でした。調査上の呼び方は「顧客等からの著しい迷惑行為」です。従業員99人以下では42.5%で、1000人以上の30.2%より12.3ポイント高くなります。
調査は厚労省の委託事業として2023年12月に行われ、全国の従業員30人以上の企業・団体から7,780件の回答を得ました。概要版の図表11を規模ごとに並べ直し、回答企業数(n)に割合を掛けて社数に戻しました。
| 従業員規模 | 回答企業数(社) | 何も実施していない(%) | 社数に直すと(社、計算値) |
|---|---|---|---|
| 99人以下 | 2,066 | 42.5 | 878 |
| 100〜299人 | 1,300 | 37.1 | 482 |
| 300〜999人 | 3,263 | 32.2 | 1,051 |
| 1000人以上 | 1,146 | 30.2 | 346 |
従業員数の4区分の社数を足して割り直すと35.5%になり、図表11の全体の値と一致します。対策がまだの会社は珍しくなく、99人以下では4割強が同じ位置にいます。
カスハラを受けた従業員の割合の業種差
同じ調査の労働者調査では、過去3年間に勤務先で顧客等から著しい迷惑行為を受けた人は10.8%でした。業種別の最高は「生活関連サービス業、娯楽業」の16.6%です。「卸売業、小売業」と「宿泊業、飲食サービス業」が16.0%で続きます。
労働者調査は、全国の企業に勤める20〜64歳の8,000人に、2024年1月にインターネットで聞いたものです。10.8%は864人にあたります(計算値)。男性10.4%、女性11.1%で差は小さく、接客の頻度が高い人ほど受けた割合が高くなっていました。概要版に載っている業種は上位3つだけです。
企業調査で、過去3年にカスハラの相談があった企業の割合を業種別に見ます。「医療、福祉」53.9%、「宿泊業、飲食サービス業」46.4%、「不動産業、物品賃貸業」43.4%の順でした。労働者が答えた業種の順位とは並びが違います。相談は会社の窓口に届いたものだけなので、受けた人の割合とは一致しません。
会社がカスハラ対策で困っていること
取組を進めるうえでの課題で2番目に多かったのは、「迷惑行為と正当なクレームや要求とを区別する明確な判断基準を設けることが難しい」の25.9%です。最多は「特にない」の32.1%でした。判定基準を作っていない企業は3割以上あります。参考にしたものの最多は、厚労省のカスハラ対策マニュアルの25.3%です。
迷惑行為に関する取組として実施しているものを選ぶ設問(13)では、「特にない」が55.8%でした。図表11の35.5%と食い違って見えますが、図表11は相談窓口の設置なども含めた取組の有無を聞いています。窓口はあってもカスハラに向けた手当てはまだ、という会社も一定数あるとみられます。
判断基準の難しさは、法律の義務化の後も残る悩みです。指針の類型に申し出を当てはめる手順は、カスハラの線引きの記事で架空の12件を使って試しています。
UAゼンセンの46.8%と厚労省の10.8%は、なぜこれほど違うのですか?
聞いた相手と期間と言葉の定義が違うためで、どちらかが誤りというわけではありません。UAゼンセンはサービス業で働く組合員に「直近2年以内」の被害を聞きました。厚労省は全業種の労働者に「過去3年間」の経験を聞いています。
UAゼンセンは労働組合で、法制化を求める立場から調査しました。2024年1〜3月に184組合から33,133件の回答を集め、被害にあった割合は46.8%です。2020年の同じ調査では56.7%でした。厚労省の調査は全業種から割り付けた8,000人で、接客をしない人も含みます。
社内資料で2つを並べるときは、図3のように調査ごとに枠を分け、対象・期間・回答数を書き添えます。「全国では1割、サービス業では5割近く」と1文で書くと、条件の違いが消えてしまいます。
実態調査の数字を社内で使うとき、何に気をつければよいですか?
調査の時期と、回答企業の従業員数の偏りの2つを先に確かめてください。企業調査は2023年12月、労働者調査は2024年1月の実施です。カスハラ防止措置が法律の義務になった2026年10月1日より前の数字です。
回答の偏りは計算で確かめられます。300人以上の企業には全数に調査票を送ったため、規模が分かる7,775社のうち4,409社(56.7%)を300人以上が占めます。そのため全体の35.5%は、中小企業だけの値より低めに出ます。300人未満の3,366社だけで計算し直すと、何も実施していない企業は40.4%でした(計算値)。
n = {"99人以下": 2066, "100〜299人": 1300, "300〜999人": 3263, "1000人以上": 1146}
p = {"99人以下": .425, "100〜299人": .371, "300〜999人": .322, "1000人以上": .302}
small = ["99人以下", "100〜299人"]
sum(n[k] * p[k] for k in small) / sum(n[k] for k in small) # 0.404
計算は、規模別の割合に回答社数を掛けて社数に戻すだけで、条件と式は本文のとおりです。割合は図表の小数1桁から戻したので、社数は数社ずれることがあります。図表11の全体35.5%は、本文の注では35.4%です。報告書の一覧のページには令和7年8月15日付の正誤表もあるので、引用する前に確かめてください。
もう1つ、勤務先が取組を「実施している」と答えた人のほうが、迷惑行為を受けた割合は高く出ていました。これは相関で、取組が被害を増やしたとは読めません。
自社のカスハラの実態の数え方
いちばん確かなのは、自社の事案の記録から数えることです。全国の割合は目安にはなりますが、御社の店舗や事業所で月に何件起きているかは教えてくれません。
数えるには、事案ごとに同じ項目で記録が残っている必要があります。厚労省のカスハラ対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)p.33は、本社・本部に共有すべき内容を6項目挙げています。対応日時・場所、対応従業員、要望の内容、顧客等の情報、現場監督者の指示、対応結果です。項目の作り方はカスハラの記録の項目の記事にまとめました。
記録がそろえば、拠点別・月別の件数を出せます。拠点ごとに来店客の数が違うときは、件数だけで比べると順位を読み違えます。来店客1万人あたりの率で比べる方法をカスハラの件数の集計の記事で試しています。指針も望ましい取組として、アンケートなどで運用の状況をつかむことを挙げています。
このサイトで相談するには?
カスハラの報告がどこで止まり、何件起きているかは、今の報告の流れをうかがうだけでも一緒に整理できます。何をどう頼むか決まっていなくても大丈夫で、準備は要りません。カスハラ報告ラインの主宰が、御社のやり方に合わせて進め方を一緒に考えます。無料で相談するからお声がけください。
よくある質問
- カスハラ対策をしていない中小企業は、どれくらいありますか?
- 厚労省の令和5年度調査では、従業員99人以下の企業の42.5%が取組を何も実施していませんでした。100〜299人では37.1%です。
- 厚労省の調査とUAゼンセンの調査は、どちらが正しいのですか?
- どちらも正しく、聞いた相手と期間が違います。厚労省は全業種の労働者8,000人に過去3年、UAゼンセンはサービス業の組合員に直近2年を聞いています。
- カスハラが多い業種はどこですか?
- 労働者調査で受けた割合が高いのは、生活関連サービス業・娯楽業16.6%、卸売業・小売業16.0%、宿泊業・飲食サービス業16.0%です。
- 調査は法律の義務化の後に行われたものですか?
- いいえ。調査は2023年12月〜2024年1月で、カスハラ防止措置の義務化(2026年10月1日施行)より前です。
出典と数字の作り方
- 厚生労働省 令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)」令和6年3月、厚生労働省委託事業。企業調査 有効回答7,780件(2023年12月)、労働者調査 8,000名(2024年1月)、図表11・本文(13)(14)(2026年10月17日確認)
- 厚生労働省「職場におけるハラスメント関係の調査」報告書の一覧(令和7年8月15日に正誤表を掲載)(2026年10月16日確認)
- UAゼンセン「カスタマーハラスメント対策に関するUAゼンセンの取り組み報告」厚生労働省 雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会(第4回)資料2、2024年4月12日。回答33,133件(2024年1〜3月)(2026年10月17日確認)
- カスハラ報告ラインの計算(2026年10月17日。図表11の規模別の割合×回答社数から何も実施していない社数を戻し、300人未満は(878+482)÷(2,066+1,300)=40.4%、300人以上の占める割合は4,409÷7,775=56.7%。scripts/figs/kasuhara_jittai.py)(2026年10月17日確認)
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」(カスハラ防止措置は令和8年10月1日施行)(2026年10月16日確認)
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(令和8年度改訂版)」p.33 本社・本部に共有すべき内容例(2026年10月16日確認)